大統領の指針ともなる最高情報機関・米国国家会議(NIC)。CIA、国防総省、国土安全保障省――米国16の情報機関のデータを統括するNICトップ分析官が辞任後、初めて著した全米話題作『シフト 2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』が11月19日に発売された。在任中には明かせなかった政治・経済・軍事・テクノロジーなど多岐に渡る分析のなかから本連載では、そのエッセンスを紹介する。
第3回のテーマは世界の命運を握る「中間層」だ。中国やインドなどの新興国では今後20年で「中流」層が急拡大する。政治や経済動向によって中間層が没落するようなことになれば、国力は大いに下がることになる。拡大する「中間層」のインパクトを分析する。
2030年、
世界人口の半分が「中流」になる
個人のパワーが大きくなっている最大かつ最も明白な理由は、経済的な豊かさだ。これは世界じゅうで中間層が拡大していることにも表れている。未来を理解するうえで、中間層の拡大がいかに重要な役割を果たすかは、どんなに強調しても足りないほどだ。
向こう20年間、世界の人口の半分以上は困窮しない。そして西側諸国だけでなく世界じゅうの国で、中間層は最も重要な経済的・社会的グループになるだろう。
中間層とは何か。通常は1人当たりの消費額によって定義される。私が利用している「インターナショナル・フューチャーズ」モデルでは、1日の世帯支出が10〜50ドル(購買力平価ベース)と定義している。ゴールドマン・サックスは、1人当たり国内総生産(GDP)が年間6000〜3万ドルとしている。
定義によって中間層の規模は変わってくるが、現在は10億人程度で、2030年には20億人超に増えると見られている。これは控えめな見積もりだ。なかには30億人に達するという予測もある。あるEUの報告書は、過去10年間、毎年7000万人以上が中間層に加わったとしている。それによると、「2030年までに、世界の人口の過半数」が中間層になると見られる。2030年の世界の人口は83億人と推測されているから、EUの見積もりでは40億人以上が中間層に属することになる。
ある調査によれば、2010年に中国の中間層は人口の4%に過ぎなかったが、「2020年までにアメリカを抜き、世界最大の中間層市場となる可能性がある」。しかしその中国も、その次の10年でインドに抜かれそうだ。インドでは中国よりも急速に人口が増加するとともに、中国よりも平等な所得分配が実現すると見られている。
アメリカと西ヨーロッパで、『グローバル・トレンド』の暫定版(特に中間層の台頭)を説明するのは、なかなか勇気がいることだった。中間層が活気づくという見方に、多くが信じられないという顔をした。むしろ彼らは、中間層は消滅するか縮小しつつあると懸念していたのだ。たとえ今後、西側諸国の経済が停滞したままで、途上国の成長が加速しても、西側諸国の平均所得は途上国のそれを大幅に引き続き上回るだろう。それでも、中間層が消滅しつつあるのではないかという西側諸国の不安には一理ある。