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湯谷昇羊 不屈の経営者【列伝】

倒産寸前の老舗テーラー
再建したのは素人の社長夫人(下)

――銀座テーラー社長 鰐淵美恵子

湯谷昇羊 [経済ジャーナリスト]
【第2回】 2009年11月5日
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会社を辞めた社員が近くで開業
「銀座テーラー」のラベル悪用

 莫大な借金返済の一方で、大胆にリストラも行なった。店舗を大幅に縮小、社員も減らした。会社が危ないと思い、辞めていった人も多かった。20人いた営業マンは美恵子を入れて3人になった。ところが不思議なことに売上減は半分で止まった。

鰐淵美恵子
株式会社 銀座テーラー 鰐淵美恵子社長

 ひどいこともあった。会社を辞めた裁断長や営業マンなど4人が、銀座テーラーのすぐ近くでテーラーを始めたのだ。しかも顧客名簿を持ち出して銀座テーラーの顧客を回った。そのうえ、洋服に縫い付ける「銀座テーラー」のラベルまで大量に持ち出して利用していた。昨日まで仲間だと思っていた人間が、今日には敵になっている。美恵子は悲しかったが、ファイトも沸いてきた。「こんなことで負けてなるものか」。

 営業マンから裏切られたこともあった。現金を集金に行った営業マンが「値切られました」と言って、顧客から受け取った額より少ない額しか入金しなかった。

 営業をやるにも冠婚葬祭に出席するにも、肩書きがものを言うことを痛感していた美恵子は、病気だった正夫を説得して2000年に社長に就任した。その3年後に正夫は亡くなる。

 美恵子は経営の勉強と営業のために、様々な勉強会に出席した。ソフトバンクの孫、楽天の三木谷などもメンバーだったニュービジネス協議会にも参加した。そこではNPOに関する委員会に所属したが、あるとき委員長に「自分の会社をどう経営すればいいかわからない」と相談した。すると「銀座テーラーの再生」をテーマに、10人くらいのメンバーで議論してくれた。

 その翌日のことだ。美恵子のもとにA3の紙がファックスで送られてきた。表紙には「銀座テーラー第2の創業」とある。内容は驚くほどよくできていた。送信主は薬品関係の会社役員からで、委員会のメンバーだった。「この人に頼むしかない」美恵子の直感だった。苦手なことは専門家に頼るしかない、それが学んだ経営学の1つだった。

 その人物は、2002年2月から転職して来てくれた。それが今の専務だ。彼が最初にやったことは、2次ブランドの創設だった。従来のオーダーメードでは30万円以上のものしかなかったが、同じ生地を使いマシンメードとして13万6500円の価格帯の商品を創設しようというのだ。職人たちは「銀座テーラーとして恥ずかしい」と言うし、美恵子自身にも抵抗があった。しかし、「売れるか売れないかは、お客さんが決めること」という専務の言葉に、売り出すことに同意した。

 ブランド名は「サムライ」で、裏地の一部に西陣織を使い、ボタンは福井県鯖江市で漆塗にした。また、お客さんの名前の1文字を花押にして縫い付けるなどの特徴を持たせた。最初の1年は営業マンが「きわものだ」として売らなかったが、すぐに評判になり、売れるようになった。

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湯谷昇羊 [経済ジャーナリスト]

経済ジャーナリスト。鳥取市出身、1952年生まれ。法政大学経済学部卒業。1986年にダイヤモンド社入社、2004年週刊ダイヤモンド編集長。2007年営業局長兼論説委員、同年取締役。2008年同社退社。2000年に立命館大学客員教授として教鞭をとる。主な著書に、「迷走する銀行」、「生保危機の真実」、「会社再建」、「立石一真評伝 『できません』と云うな」(いずれもダイヤモンド社刊)、「サムライカード、世界へ」(文春新書)などがある。最新刊は『巨龍に挑む 中国の流通を変えたイトーヨーカ堂のサムライたち』(ダイヤモンド社刊)。


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