持ち味は活かしながら
過去を捨てさせる

 一方、企業の人材開発担当者が必死に構築する新人向け研修プログラムでは、一生懸命に創り込めば創り込むほど「ニュートラルゾーン」などといった中途半端なものを許容できないものになっていきます。

 第2段階を飛ばして、性急に第3段階――組織への順応を求めるものになりがちです。第1段階すらできていないところで、第3段階が強要される、といえなくもありません。

 しかし、新しいことを始めるためには、今までの古いことをきちんと終わらせる必要があります。これがきちんとできていないと、新しいことに正面からぶつかることができません。現実からついつい目をそらしてしまいます。

 つらいことですが、自分の持ち味は活かしながら、過去を捨てる必要があるのです。

 第1志望ではない企業に入ったという気持ちをまだ引きずっている人であれば、これはさらに難しくなります。

 個々人の心のうちのことを、ブリッジスの「トランジションの3段階」のように綺麗な3つのプロセスで捉えることには無理があるでしょう。ただ、この3段階を意識することは大切です。いかにきちんと「終わり」をつくり、いかにきちんと「始まり」に対峙できるようにするかです。

 大学でのキャリア教育と就職活動によって、この第1段階にしっかりと向き合うことができていればよいのですが、いずれもなかなかそのようには機能していません。というよりも、「移行」ということ自体が、ほとんど意識されていません。

 内定時期と新入社員研修の時期が、「ニュートラルゾーン」として機能すればよいのかもしれませんが、健全な第1段階なくしての第2段階の出現は、難しいものがあります。

 その結果、新入社員研修、もしくは現場配属後にはじめて第1段階に対峙し、そこでの喪失感から健全な「移行」をすることができずに、結果として早期退職にいたってしまうのではないかという仮説が成り立ちます。