歴史的な政権交代からわずか8カ月あまりで退陣に追い込まれた鳩山首相。そのニュースは、世界でどう受け止められたのか。『日はまた昇る』の著者で、英国の高級紙「The Economist(エコノミスト)」の前編集長であるビル・エモット氏に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン、麻生祐司)

ビル・エモット
Bill Emmott(ビル・エモット)
1956年8月英国生まれ。オックスフォード大学モードリン・カレッジで政治学、哲学、経済学の優等学位を取得。その後、英国の高級週刊紙「The Economist(エコノミスト)」に入社、東京支局長などを経て、1993年から2006年まで編集長を務めた。在任中に、同紙の部数は50万部から100万部に倍増。1990年の著書『日はまた沈む ジャパン・パワーの限界』(草思社)は、日本のバブル崩壊を予測し、ベストセラーとなった。『日はまた昇る 日本のこれからの15年』(草思社)、『日本の選択』(共著、講談社インターナショナル)、『アジア三国志 中国・インド・日本の大戦略』(日本経済新聞出版社)など著書多数。現在は、フリーの国際ジャーナリストとして活躍中。
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―鳩山首相の退陣表明をどう捉えているか。

 少し残酷な言い方かもしれないが、鳩山首相の辞任は、日本にとっても世界にとっても良いことだ。彼は明らかに首相としては失格だった。

 私も個人的には鳩山さんがいかに誠実で、高い理想を持ったナイスガイであるかは知っているつもりだ。しかし、リーダーは知性や誠実さだけでは務まらない。なにより果断な性格の持ち主でなければならない。ところが、この8カ月あまりの言動を見る限りにおいては、彼はその能力が著しく欠けていたと断ぜざるを得ない。

―普天間基地移設を巡る混乱はその象徴的出来事か。

 それは、いまさら言うまでもなく誰の目にも明らかだろう。政権奪取のために実行困難な約束をすることは洋の東西を問わない政治家の常套手段だが、たとえそうだとしても、これは酷すぎる。そもそも政権の生き死にを左右するような重大な政策テーマについては、本来は公約を口にする前に慎重の上にも慎重を重ねて、その道のプロらと共に、実行の可能性を検証するものだ。「最低でも県外」との口約束をして以来の二転三転の迷走ぶりを見ると、普天間基地問題については、その検証を行った気配が感じられない。当事者はやったというかもしれないが、それはプロの仕事ではなかったということだろう。

 私が推察するに、政権交代後のかなり早い段階で、普天間基地問題については公約を守ることが難しいと分かっていたのではないか。政権発足から2ヶ月以内に、公約を守れない理由をきちんと説明できていれば、もしかしたら鳩山首相にも違う展開があったかもしれない。とにかく勉強不足だったということだろう。

 繰り返すが、政権を担おうとする政党は、確実にできないと分かっていること、あるいは確信が持てないことは、特に政権の命運を左右する重大な政策テーマに関しては、約束などしないものだ。歴史的な経緯を考えれば、沖縄の基地問題がそれに該当することぐらいは分かっていたはずだ。それすらも見えていなかったとすれば、世評どおり、役者不足だったということに尽きる。