人口減少に地方はどう立ち向かうのか。全国の自治体では、その答えを示す「地方版総合戦略」の策定が大詰めを迎えている。計画の提出を受けた国は、2015年度補正予算案と、16年度本予算案で2000億円規模の交付金を確保し、これらを支援していく予定である。

「16年は地方創生を計画から実行に移す年になる」――。『週刊ダイヤモンド 総予測2016』(12月26日・1月2日新年合併号)では、そう述べた石破茂・地方創生担当大臣のインタビューのほか、ロールモデルとなり得る地方の取り組みを追った。その一部をオンライン拡大版としてご紹介しよう。(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)

《鹿児島県長島町》
全国最年少町長が仕掛けた「ぶり奨学金」

 鹿児島県の最北端、東は八代海に面し、西は天草諸島を望む人口約1万1000人の長島町。

長島町の主力産業はブリの養殖。東町漁協の年間出荷量は約230万本に達し、そのブリを「鰤王(ぶりおう)」とブランド化し、世界27カ国に輸出している

 ブリの養殖が盛んで、中心にある東町漁協の年間出荷量は約230万本に達する。東町漁協は、そのブリを「鰤王(ぶりおう)」とブランド化し、世界27カ国に輸出。大手コンビニエンスストアのおせちにも利用されている質の高さが売りだ。

 しかも、「2020年までには現在の海外向け20万本を50万本にしたい」(長元信男・東町漁協代表理事組合長)という、日本でも有数の元気な漁業の町である。

 だが、いま大きな課題を抱えている。それが後継者の問題だ。

 実は長島町には高校や大学がないため、1学年100人ほどの中学生たちが毎年卒業して島外に出てしまい、その半数近くが戻ってこない。親の経済的な負担も大きい。そこで長島町は、地元の鹿児島相互信用金庫と慶應義塾大学SFC研究所社会イノベーション・ラボを巻き込み、一風変わった奨学金を創設した。

 それが「ぶり奨学金」である。鹿児島相互信用金庫が50万~500万円を優遇金利の1.5%で貸与。もし子どもたちが町に帰ってきた場合は、利息分を含めた返済分を町の基金が肩代わりする。ユニークなのは、基金の原資に「漁協はブリ1本につき1円を寄付する」などと民間の寄付金を取り入れることだ。

 これにより、町全体が一丸となって子どもたちを応援する仕組みを整えた。地域の目が入ることで返済の滞納も防ぐようにした。

 仕掛け人となったのが、15年4月に「地方創生人材支援制度」で総務省から派遣され、全国最年少の副町長になった井上貴至さん(30歳)。

 地方創生の好事例は、地域性が関係していたり、秀でた人材が長年かけて築いたモデルであったりして案外、他の地域ではまねできないことが多い。