変化が自身の可能性のスイッチをオンにする。しかし、大きな変化を自ら選択するのはたやすいことではない。だとしたら、どうすればいいのか。実は、シンプルな方法がある。それは……。書籍『変わり続ける―人生のリポジショニング戦略』の著者である出井伸之氏に聞いた。(まとめ/編集部)

「選択肢の多い」
会社を選ぶ

 僕が大学を卒業して就職活動をしていた頃のソニーはまだ小さい会社で、売
り上げは100億円以下だった。当時、就職についての周囲の「常識」は銀行や商社や大きなメーカーを選ぶことだったが、僕は違った。もともとオーディオは大好きだったし、自分がやってみたいことに近いと感じた。技術がユニークであること、小さな会社であること。いずれも魅力に感じた。

 大きな会社には、優秀な人材はいくらでもいる。だったら小さな会社で自分の力を存分に発揮したい。僕がソニーを志望した理由だった。ソニーという会社が持つ「広がり」と「可能性」に着目したのだ。まったく逆の発想の企業選びだったのだ。

 ソニーは、
・理系の会社である(進化の著しいテクノロジーの世界に身をおくという可能性)
・世界に出ていこうとしている会社である(とりわけヨーロッパはこれから。グローバルに活躍する可能性)
・小さな会社で、大きな影響力を発揮して仕事ができる可能性もある
・スケールの大きい経営者の下で、ダイナミックな発想で仕事ができる可能性だってある

 こう考えると、ソニーは小さな会社ではなく「広がりのある大きな会社」ともいえる。つまり、ソニーを選ぶということは、自分の可能性を最大化させることだったのである。
 グローバルに活躍したいからグローバル企業に入ろうではなく、「自分の可能性のスイッチ」を押す場所のひとつとして「グローバル」があるという発想だ。どこに自分の適性や才能があるかわからないからこそ、選択肢の多い場所に身を置くというやり方もあると考えたのだ。
 こんなふうに自分の将来を捉えてみると、チャンスや可能性がたくさんあることに気づくだろう。そして、働くことが楽しみに思えてくるはずだ。

安定の場では
可能性のスイッチはオンにできない

 ここで大切なことがある。
 安定の場にいる限りは、可能性のスイッチをオンにすることは難しいということだ。
 たしかに、自ら変化を選択することは勇気のいることだ。それなりに安定した場所にいれば、リポジションしようなどとは考えにくい。
 だったら、大きな変化の中に身を置いてしまえばいいのだ。大きな変化の中にいれば、おのずと自分も変化せざるを得ない。

自ら変化を選択するのがこわいのであれば、「変化の激しい場」に身を置けばいい。
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 僕自身そうだった。
 ソニーに入社したときは売り上げが100億円くらいだったが、自分が社長になったときには4兆円近くまでになっていた。急成長を遂げる中で、おのずと僕たちも、会社とともに変化していった。要するに、何か急速に伸びるものと一緒にいれば、結果的にリポジションできるのだ。

 何でもいいと思う。外国へ留学する、旅行するのでもいい。急成長のベンチャー企業で働くのもありだ。何かものすごい変化のときに、そこにいること。そして、変化のスピードとギャップを肌で感じるのだ。

 僕自身、留学や海外駐在、そして企業のとてつもない成長スピードの渦にいたことで、結果としてリポジションすることが当たり前となった。

 自らを大きく変えるのは難しい。
 しかし、ものすごい変化の中に身を置くことは、自らを大きく変化させるよりは簡単だ。必要なのは少しの勇気と最初の一歩だけだ。

 自分の可能性のスイッチは、思わぬところにあるかもしれない。
 火事場の馬鹿力で何かをやり遂げることや、留学などの海外生活で日本を外から見ることなど、大きな変化を経験することで、自分のDNA、いわば潜在能力にスイッチが入る。自分の中に眠る、まだ見ぬ力を目覚めさせるのだ。

 変化の激しい今の時代だからこそ、思い切り大きな渦に飛び込み、変化を楽しんでほしい。