1998年に経営破綻した日本長期信用銀行。エリート集団として高い評価を受けていた行員たちは、社会から糾弾され、辛酸をなめることとなった。経営破綻 から17年、2000年に新生銀行として再出発してから15年。苦悩の日々を潜り抜け、自ら人生を切り開いた長銀OBの激動の十数年に迫る。(経済ジャーナリスト/宮内健)
さまざまな業種で通用し続ける元長銀マン
リコーグループのカメラメーカー、リコーイメージング社長の赤羽昇さんは取材に入る前、「ちょっとお見せしたいものがあります」といって薄いスティック状の機器を取りだした。
「これは全天球カメラというもので、製品名をTHETA(シータ)といいます。全天球といってもイメージが湧かないと思いますが、これはスマホやタブレットとWi-Fiでつなげ、アプリを使って楽しむものなんです」
赤羽さんは机の中央にカメラらしくない形状の機器を置き、スマホからリモートでシャッターを切った。するとスマホのアプリにはレンズをのぞき込む我々と、対面にいる赤羽さんを含む上下左右360度の不思議な画像が映し出されていた。さらに画像をスワイプしたりピンチしたりすると、ぐるぐる画像を回転させたり気になる部分を拡大して通常の画像のような形で見たりすることができる。いままでのカメラにはない体験だ。
「結婚式でみんなにTHETAへ向かってニコッとしてもらえば、どこかに整列してもらわなくてもそのまま集合写真になるんです。あとで一人ひとりを拡大して、普通の画像のように切り取ることもできます。こちらの画像はハロウィンの夜に渋谷の交差点で撮ったもので、手持ち撮影のため私の指が写り込んでいますが、不思議でしょう?」
自社製品の説明というより、一ユーザーとして本当に面白くて仕方がないといった様子で赤羽さんは革新的なカメラの説明を続けた。何しろ、わざわざハロウィンの夜に渋谷で撮影しまくるくらいなのである。ただし、2012年にリコーイメージングの社長に就任するまでは、一眼レフカメラを触ったこともなかったという。
赤羽さんは長銀を振り出しに、貴金属やレアメタルのリサイクル事業を行うアサヒプリテック取締役、東京海上アセットマネジメントのマネージングディレクターを経て現職に至った、多様な業種を幅広く経験したキャリアの持ち主である。見方によっては一貫性のないキャリアであり、いきなり初体験のメーカー、かつコンシューマービジネスでトップに就任したわけだが、15年には親会社であるリコーのグループ執行役員にも就任し、その手腕は高く評価されているようだ。
なぜ、さまざまな業種を渡り歩きながら、どこでも力を発揮できるのか。話をうかがっていると、そのカギとなるのは「好奇心」のように思われた。