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かつて、社員の離職率が28%に達しサイボウズは、どのようにして社員が辞めない「100人100通り」の働き方ができる会社になったのか? その過程と、多様性をマネジメントする手法を詳細に記した書籍、『チームのことだけ、考えた。』より、サイボウズの創業期から会社の改革に着手するまでの部分を紹介する連載の第9回です。
「なかなか社員に理想が浸透しない」と感じたときに青野社長が書いた勝負のメッセージは、どのように社員を動かしたのでしょうか。

理想の浸透には時間がかかる。
社員にメッセージを送ってみた

 「チームワークだって? そんなキーワードじゃ勝てないよ」と、営業現場からネガティブな反応もあった。営業メンバーは、日々、競合他社と熾烈な競争をしながら販売活動をしている。競合から不利な機能比較表を突きつけられたり、値引きの交渉を受けたりしながら、日々現場で戦っているのだ。そこに「チームワーク」という概念を持ち込んだところで何の足しになろうか。製品の機能強化や価格競争力こそ、現場で求められている価値なのだ。

 これについては、長期的に解決していくしかないと考えた。残念ながら、今日明日に勝ち負けが決まる案件で、私たちがチームワークについて真剣に考え、取り組んでいることは何の足しにもならない。顧客は「ふーん、そうなんだ。で、この機能はあるの?」と反応するしかない。

 今回、掲げた全社共通の理想は、30年にわたって目指し続ける長期の理想だ。今、掲げ始めたばかりなのだから、現実との乖離が大きくても仕方がない。しかし、これから我々が毎日、製品開発や営業現場でこの理想を掲げ続け、目指し続けたらどうなるだろうか。我々が考えるチームワークの概念が製品に反映され、そして顧客にはツール以上の付加価値とともに提供できるようになり、競合他社と大きな差が生まれるに違いない。グループウェア製品の選択は、顧客のチームワーク向上に向けて極めて重要な意思決定だ。安かろう悪かろうではいけない。チームワークを高めたいなら、チームワークに一番こだわって作られているサイボウズ製品を使おう。そう認識してもらえるように、日々の活動を高め、継続していくしかない。そこまでいけば、営業メンバーも理解してくれるに違いない。

 自信を持って選んだ共通の理想だが、このように浸透には時間がかかることがわかった。ただ、簡単に共感してもらえなくて当たり前だ。1人1人、それぞれの個性を持って生まれてきて、それぞれの人生を歩んできたのだ。にもかかわらず、今まで共通の理想を掲げてこなかったのだ。個々がバラバラの理想を持っていて当然だ。これから時間をかけて束ねていくしかない。

 私は以下のメッセージをグループウェアで全社に公開した。一部省略するが紹介したい。

◎世界一のグループウェア・メーカーを目指す
(2007年2月26日 9時30分)

「鈍感力」という言葉が話題になっているそうです。小泉前首相が安倍首相に対し、「目先のことに鈍感になれ。支持率が上がったり下がったりするのをいちいち気にするな」というメッセージを出したところから広がったとのこと。

私が社長になって丸2年、周囲の目が気にならなかった日は1日もありません。株価が下がった日は、ブログに多数の批判コメントが寄せられ、ほぼすべて読んできました。IBMやMicrosoft、Googleのような巨大な欧米企業の動きには、一喜一憂してきました。退社する社員が現れるたびに動揺していました。「鈍感」とは遠い自分が常にいました。

さて、サイボウズはこの2年間、M&Aや新規事業を含め、さまざまな新しい戦略を実行してきました。それは、鈍感力が不足して、過敏に防衛本能を発揮したためなのかどうかはわかりません。ただ、それまでのサイボウズでは、決してやらなかった施策を数多く実行してきました。そのうちのいくつかは成功し、多くは目標に達せず失敗しました。

ポジティブに振り返ってみると、すべていいチャレンジだったと思っています。今の私たちが「できること」を把握できました。たとえるならば、ピッチャーしかやったことがない野球少年が、キャッチャーや内野手、外野手もやってみて、「外野手はできそう。でも、他のポジションは無理そう」と理解したような感じです。

サイボウズは、これから、グループウェアで世界一になります。そのために、世界で一番使えるグループウェアを作り、国内のグループウェア市場で圧勝しつつ、かつ、同時に世界を目指していかなければなりません。

「グループウェア市場はこれ以上伸びない」とか、「グループウェアという言葉が古い」とか、評論家めいたことを言う人がいたとしても、放っておきましょう。ここで鈍感力を発揮しましょう。グループウェア市場を広げるのも、グループウェアという言葉を定着させるのも、周囲ではなく我々にかかっているのですから。

我々サイボウズは、『グループウェア・メーカー』であり、世界一使われるようになりたいのです。グループウェアを作り、それをたくさんの人に喜んで使っていただく。大企業も、中企業も、小企業も。企業を越えても、企業でなくても。グループあるところにサイボウズあり。サイボウズあるところにチームワークあり。世界中によりよいチームワークを創り出す企業になりましょう。それをみんなで実現していきましょう。


 文章を今から読み直すと恥ずかしい限りだが、そのときの私にとっては勝負のメッセージだった。全社員に共通の理想を突きつけた。すると、信じられないことが起きた。この文章をプリントアウトし、自分の机の前に貼る人がいたのだ。驚いた。自分の言葉が人の心を動かし、共感してもらえた現実を目の当たりにした。自分の言葉の重みを痛感した。

 また、営業の高野寛子にこう言われた。「“グループあるところにサイボウズあり。サイボウズあるところにチームワークあり”という言葉がいいですね。名刺に印刷したいくらいです」。これはいいことを聞いた。この言葉は適当に思いついて書いただけだが、確かに響きは悪くない。スローガンとして掲げてみよう。数年後、この言葉が現在使っている全社スローガンの「チームあるところ サイボウズあり」となり、サイボウズの企業ホームページのいたるところを飾ることになる。

 サイボウズは共通の理想を決めた。世界で一番使われるグループウェア・メーカーになる。そして、チームワークあふれる社会を創るのだ。

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青野慶久 

あおの・よしひさ 1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、2015年11月時点で有料契約社は12,000社を超える。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)がある。


サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか

書籍『チームのことだけ、考えた。』は、社員の離職率が28%に達し、ブラック企業になっていたサイボウズを、“社員が辞めない変な会社”に変えた、理系社長の奮闘記です。
この連載では、その冒頭部分、創業期から会社の改革に至るまでの「前史」とも言える部分を公開します。

「サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか」

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