ダイヤモンド社のビジネス情報サイト

かつて、社員の離職率が28%に達しサイボウズは、どのようにして社員が辞めない「100人100通り」の働き方ができる会社になったのか? その過程と、多様性をマネジメントする手法を詳細に記した書籍、『チームのことだけ、考えた。』より、サイボウズの創業期から会社の改革に着手するまでの部分を紹介する連載の第8回です。
同書の中で繰り返し紹介されるのが、サイボウズ社内での「言葉の再定義」です。今回の記事でも、経営における「言葉」の重要性を示すエピソードが語られます。

言葉の再定義。
チームワークを高めるソフトはすべて「グループウェア」だ

 「世界で一番使われるグループウェア・メーカーになる」。なかなかいい言葉だ。さっそく社員の共感を得ようとコミュニケーションを開始したが、ポジティブな反応だけではなかった。現実はそんなに甘くない。

 ネガティブな反応の中で、もっとも多かったのは「グループウェア事業に絞るのがつまらない」というものだった。それが理由で辞めていく人もいた。彼はこう言った。「サイボウズに入社したら、もっといろんな事業ができると思っていた。グループウェアしかできないのなら退社します」。残念だが仕方がない。私が真剣に取り組めるのはグループウェア事業だけなのだ。期待させてしまったことを謝るしかない。他の事業に取り組みたいのであれば、他の会社に快く送り出したほうが本人のためだと考えた。

 次に多かった反応は、「グループウェアやチームワークという言葉がダサい」というものだ。グループウェアは、1990年代の半ばに登場し、数多くのソフトウェア企業やシステムインテグレーターが協力しながら普及させていった。2007年の段階ではすでに「グループウェア」という言葉を掲げる企業は減り、むしろ「グループウェアは古臭い」と思われる状態だった。我々のプロモーション活動においても同様だった。「グループウェア」という言葉を前面に出して宣伝する機会は減り、「コラボレーション」とか「ソーシャル」とか新しい言葉を使って注意を引こうとしていた。つまり、「グループウェア」という言葉は、新鮮味がない懐メロのようなものになっていた。

 しかし、ここはぐっと我慢して、新しい言葉に飛びつくべきではないと考えた。私たちが目指している「チームワークあふれる社会」とは、世界中の閉じた組織(チーム)において、チームワーク活動のレベルが高い状態を指す。そのチームを支えるのがグループウェアである。コラボレーションやソーシャルとは厳密には意味が違う。意味がずれた言葉に飛びつくのは長期的に考えるとリスクが高い。

 その代わり、「グループウェア」という言葉を再定義することにした。我々が作る「グループウェア」とは、単なるスケジュール共有ソフトではない。「チーム内でありとあらゆる情報を共有し、チームワークを高めるソフトウェア」だと再定義した。今ある機能では、チームワークのごく一部しか支援できていない。グループウェアとは、もっと幅も奥行きもある総合的なソフトウェアなのだ。

 こんな話がある。アメリカの鉄道会社は自分たちの事業ドメインを「鉄道」だと定義した。そのため、移動手段として自動車が広まっていたときも、自分たちの事業ドメインを広げることができず、時代の流れに乗り遅れた。

 メンバーと共通の理想について意見交換するなかで、我々も古い思考にとらわれているのではないかと感じた。我々の仕事は、スケジュール共有や掲示板のソフトを作り、顧客の機能改善要求に応えていくことだと考えていた。グループウェアというものを勝手に制限して考えていた。既存の事業に真面目に取り組むことがかえって災いし、新たな可能性を探すことができていなかった。まさにイノベーションのジレンマである。チームワークを高めるソフトはすべてグループウェアだ。決して狭い事業領域ではない。作らないといけないものは、まだ山ほどあるはずだ。

チームワークを測る4つの要素。
「効果」「効率」「満足」「学習」

 私たちが何を提供できていて、何をできていないのかを認識するために、チームワークの本質について学ぶ努力をした。そもそもチームとは何か、チームワークとは何か、という問いを立てた。有識者の意見を聞きながら、学者の論文を調べていった。そこから大きなヒントを数多く得ることができた。

 まず、「チーム」というものに成立条件があることを知った。チームとは、人が集まっただけの集団ではないのである。チームには、「共通のビジョン」「チームの構成員」「役割分担」「仕事の連携」の4要素が必要なのだと学んだ。ここから、チームを支援するグループウェアに必須となる基本機能が何なのかが見えてきた。

 次に、「チームワーク」についても本質的な理解を深めた。まず、「チーム」が「ワーク」することがチームワークである。直訳すれば、「仲間と働くこと」である。そして、チームワークには良し悪しがあることを学んだ。チームワークが良い状態とはどういう状態なのか。ある論文にこう書かれていた。チームワークの良し悪しを決めるのは、「効果」「効率」「満足」「学習」の4要素であると。この学びは大きかった。

 それまで私は、チームワークが良い状態とは、単純に「成果物が多い」状態だと考えていた。しかし、がむしゃらに働いて成果を上げるだけの非効率なチームが、果たしてチームワークが良いと言えるのか。メンバーの満足度が低くて解散寸前なのに、チームワークが良いと言えるのか。学びが少なく、メンバーの成長につながっていないのに、チームワークが良いと言えるのか。チームワークが良い状態とは、「効果」「効率」「満足」「学習」の4要素がすべて揃っている状態なのだ。チームワークについて学ぶことで、我々のグループウェア事業が単に作業を効率化するものではないことに気付けた。我々はもっともっと大きな価値を提供できるのだ。

 最近では、「チーム」や「チームワーク」という言葉が社内用語として浸透しつつある。新しい言葉に飛びつかなかったのは正解だったようだ。このテーマは奥が深い。本質を探究していったほうが、長期的に見て有利だ。
 

 

スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
ユニ・チャーム式 自分を成長させる技術

ユニ・チャーム式 自分を成長させる技術

高原 豪久 著

定価(税込):定価:本体1,500円+税   発行年月:2016年6月

<内容紹介>
目標達成するための43の行動原則 「絶対目標達成するための週次ミーティング」「成功に導く「1→10→100」の法則」「必ず課題がみつかる“定石文”」 日本の組織が世界で勝てる秘密を公開! 社長就任から売上高3倍、海外売上比率1割から6割に伸ばしたユニ・チャームの人づくりとは?

本を購入する
ダイヤモンド社の電子書籍
(POSデータ調べ、6/12~6/18)


注目のトピックスPR


青野慶久 

あおの・よしひさ 1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、2015年11月時点で有料契約社は12,000社を超える。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)がある。


サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか

書籍『チームのことだけ、考えた。』は、社員の離職率が28%に達し、ブラック企業になっていたサイボウズを、“社員が辞めない変な会社”に変えた、理系社長の奮闘記です。
この連載では、その冒頭部分、創業期から会社の改革に至るまでの「前史」とも言える部分を公開します。

「サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか」

⇒バックナンバー一覧