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かつて、社員の離職率が28%に達しサイボウズは、どのようにして社員が辞めない「100人100通り」の働き方ができる会社になったのか? その過程と、多様性をマネジメントする手法を詳細に記した書籍、『チームのことだけ、考えた。』より、サイボウズの創業期から会社の改革に着手するまでの部分を紹介する連載の第10回です。
社員が楽しく働ける会社を目指そうとしたサイボウズが辿り着いたのは、社員に「成長」も「長く働く」ことも求めないという衝撃的な結論でした。

社員の離職を食い止めたい。
楽しく働ける会社にしよう

 共通の理想として、私たちがやるべきミッションは決まった。しかし、すぐに解決したい別の問題があった。社員の離職である。

 私が社長になった2005年、社員の離職率は28%に達した。その年が始まるときに在籍していた83人の正社員のうち、実に23人が1年後にはいなかった。翌年もさらに16人がサイボウズを去った。原因の1つは労働環境だった。平日は終電まで働く人が多く、夜10時になっても半分のメンバーは当たり前のように働いていた。土日も出社すると必ず誰かがいた。社員は楽しそうに働いてはいなかったが、それがITベンチャーとして普通の姿だと思っていた。ハードな働き方を拒む人がいても、「我々はITベンチャーですよ。何がしたくて入ってきたんですか?」と、こんな調子で考えていた。ベンチャー企業として、新しい市場で一獲千金を狙っていく。そのわずかなチャンスに望みを託し、持てる能力・時間の限界までチャレンジする。それがベンチャー企業で働く喜びであり、それが社会を活性化しているのだという誇りもあった。

 しかし、挫折を経験した後の私は考え方が変化していた。社員が楽しく働いていないことは重要な問題だと思い始めていた。なにしろ私は社長という重責に応えることができず、辞める決意までした人間だ。それでもなお社長にとどまることを認めてもらったのだ。大失敗をして迷惑をかけた自分が、彼らのリーダーとして理想を掲げ、指揮を執り続けるのであれば、みんなが楽しくなくてよいはずがない。楽しく働ける会社にしよう。重要なのはベンチャーらしさではない。残った人たちの幸福だ。変えなければならない。でも何をどう変えればよいのか、答えがわからない。

 幸いにもサイボウズには山田がいた。山田は上場する前のサイボウズに約10番目の社員として入社し、その後、管理部門の責任者としてサイボウズに残っていた。山田は日本興業銀行の出身だ。楽天の三木谷浩史社長の後輩にあたる。しかし、とても興銀出身とは思えない。彼が行なう学生向けの会社説明会は、いつも笑いの渦が起きる。というかウケを狙っている。関西芸人のようだ。おそらく興銀もエリート人材ばかりでは多様性が失われるから山田を採用したに違いない。

 そんな山田は、銀行出身ということを買われて経理で活躍することを期待していたが、彼がもっとも興味を持っていたのは組織作りだった。そこで、人事を中心に見てもらうことにした。山田は事業自体にはさほど興味がないらしい。サイボウズの事業がグループウェアであり、組織作りに密接に関係するソフトウェアだから楽しめるそうだ。我々の事業ドメインをグループウェアから会計ソフトに切り替えたら、真っ先に辞めるに違いない。

 もし「世界で一番使われるグループウェア・メーカーになる」ことを目指し、チームワークあふれる社会を創ることをミッションとするのであれば、まず我々自身がレベルの高いチームワークを実践できる会社でなければならない。現在のように、次々と従業員が辞めていく会社であってはならない。チームワークの4つの評価基準である、効果・効率・満足・学習をすべて満たせるような組織を作らなければならない。

組織イズムを考える。
3つの方針が決まったが……

 我々の組織が何を目指し、どのような状態に変われば、チームワークが高い状態を作れるのだろうか。組織のミッション(=やること)に対し、組織のイズム(=あり方)を定義したい。そう考え、山田は言葉を探した。

 そして、1つのスローガンを作った。「より多くの人が、より成長し、より長く働く会社」。より「多くの人」とは、「人数の多さ」に加えて「多様性」も表している。いろいろな人がたくさんいる会社だ。ただし、いるだけではチームワークではない。チームに貢献できるよう、1人1人に「より成長」してもらわないといけない。そして、「より長く」働いてもらいたい。今のサイボウズのように、次々と人が辞めていく会社では持続できない。グループウェア事業は、気が遠くなるほど深くて時間のかかる事業だ。長く働く社員がたくさんいてこそノウハウがたまり、よりよい活動につなげられる。そう考えた。

 これで、我々がどのような組織を目指すのかが決まった。

・より多くの人(多くの社員と多様性)
・より成長(スキルの向上)
・より長く働く(長期雇用)

 いかがだろうか。これを決めた当初、我々経営メンバーはよい言葉を選ぶことができたと考えた。そして、そういう組織を作ろうと実現に取り組んできた。ところが、それから7年間の歳月の間に、これらの方針は大きく転換が進んでいる。シンプルに言うと、「多様性」以外の言葉を切り捨ててしまった。それぞれ一定の成果を上げることはできたのだが、根本的なところで説明できなくなり、ほとんどの方針を取り下げることにした。何が違ったのか。

「人数の多さ」は重要ではない。
「成長」と「長く働く」にも違和感が出る

 まず、「より多くの人が」と掲げたが、「人数の多さ」は重要でないかもしれないと途中で思い始めた。世界中のチームワークを向上させるには、たくさんの人の協力が必要である。しかし、それはサイボウズの社員がたくさんいることとは同義ではない。社員自体は少数であってもよいかもしれない。

 実際、世界中に広まったソフトウェアが少人数で開発されているケースは多い。たとえば、Linuxというソフトウェアは、世界中の至るところで使われている。世界中のほとんどのインターネットサービスはLinuxで動いているし、爆発的に普及したモバイルOS「Android」もLinuxのカーネルと呼ばれる中核部分をカスタマイズして使っている。しかし、Linuxのカーネルを開発しているのは、リーナス・トーバルズ氏を中心とするコミュニティだ。そして、Linuxの普及を進めているのはLinux Foundationという非営利の団体である。Linuxは、世界中で使われているにもかかわらず、少人数の団体職員とボランティアがその中心的役割を担っている。本当にそんなことで広がるのか?

 実は多数の営利企業がLinuxを使った周辺ビジネスを展開している。大手のIT企業はこぞってLinux Foundationのスポンサーになっている。それにより、世界中が自由にLinuxを活用できる環境が整い、世界標準のソフトウェアになった。企業の枠を越えたエコシステムを作ったのだ。サイボウズも同様の施策を取り、企業規模を拡大せずに少人数でい続けたほうが、世界中で自分たちのグループウェアを使ってもらうには近道かもしれない。

 また、1人1人の社員に「より成長」することを求めるのも違和感を持つようになった。多様性を考えれば、成長したい人もいれば、無理をしてまで成長を望まない人もいるだろう。それはそれでよいのではないか。幸福感を失ってまで無理に成長を求める必要があるのか。そもそも人は成長し続けることはできない。すべての人は1年に1歳必ず年を取り、そしていつかは死亡する。にもかかわらず、全メンバーに継続的な成長を求めるのもおかしな話だ。それぞれの人のライフサイクルに合わせて成長すればよい気がしてきた。

 そして、社員に「より長く働く」ことを求めるのもどうかと思い始めた。我々は、退職者が相次ぐ暗黒時代を経験してきた。確かに辞めていくメンバーを見るのは辛いが、果たしてそれは悪いことなのだろうか。私自身、最初に勤めた会社をスムーズに辞めることができたから今がある。それを否定することはできない。今までサイボウズでも数多くの退職者を見てきた。そこには、喜ばしい辞め方も多かった。辞めた後に起業して生き生きと働いていると報告をくれたり、転職先でサイボウズと仕事上の接点ができ、お互いにパートナーとして協業できたりすることもある。辞めてもらってお互い本当によかったと思うケースは少なくない。であれば、「長く働く」ことを掲げる必要はない気がする。
 

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青野慶久 

あおの・よしひさ 1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、2015年11月時点で有料契約社は12,000社を超える。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)がある。


サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか

書籍『チームのことだけ、考えた。』は、社員の離職率が28%に達し、ブラック企業になっていたサイボウズを、“社員が辞めない変な会社”に変えた、理系社長の奮闘記です。
この連載では、その冒頭部分、創業期から会社の改革に至るまでの「前史」とも言える部分を公開します。

「サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか」

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