ジャッキー・チェンの最新自伝『永遠の少年』邦訳版がついに刊行! 挫折と成功、命がけの撮影、切ないロマンス、黒社会との関係、浮気と隠し子問題、息子の大麻事件、引退や生死について等々、これまで語られてこなかった秘密エピソードが満載です。本連載では、映画を超えるような彼の人生を同書から抜粋して紹介します。第2回は世界中のロケで経験した驚きのエピソード!

ジャッキーは本物の画を撮るために、ロケには非常にこだわりがある。火山の場面があれば、本当の火山にいって撮影するし、たった一つのシーンのためにラトビアまで飛ぶ。今回は、『プロジェクト・イーグル』の撮影で訪れたモロッコ、『ライジング・ドラゴン』の撮影で訪れたバヌアツでの驚きの体験を紹介しよう。

それぞれの価値観

『プロジェクト・イーグル』の主なロケ地はスペインとモロッコだった。

 モロッコでは、ぜんぶ砂漠で撮った。朝は4時起きで、5時45分にはもう撮り始める。正午になると、もうこれ以上は撮れない。12時を回ると、砂漠では日差しがどんどん強くなるので、あらゆる機械類は触ったら火傷するほど熱くなり、フィルムも溶け出す。だから午後からはもう休み。これは、香港の現場のハイペースに慣れてしまった身にとっては、時間を無駄にしている気がして、居ても立ってもいられなくなる。

『プロジェクト・イーグル』の撮影風景

 そこには1ヵ月以上滞在した。現地の決まりでは、週に1日は絶対に休まねばならない。で、その休みの日になるたび、手持ちぶさたになる。ホテルから出れば砂漠があるだけで、どこにも行けやしない。ホテルの屋外プールにも分厚く砂が沈んでいる。何の娯楽もないから、待っているのがひたすら退屈だ。

 それでプロデューサーに、現地のスタッフと相談して、この1日の休みをなくしてほしい、と掛け合った。この日のギャラは2倍出すから、と。現地のスタッフはプールの周りに座って、酒を飲みながらだべっている。プロデューサーの話を聞くと、みんないぶかしげに、

「休みの日に休まないでどうする。仕事なんて論外だ」

と言う。

 次の週になると、また休みの日がやってきた。部屋でもじもじして、どうしてもじっとしていられなかったので、連中を探して、自分で話しかけた。

「ほら、おれたちが早く撮り終えれば、みんなも早く家に帰れるだろ。ギャラも2倍になるし、金儲けができるじゃないか」

 すると連中が、

「そんなに金を儲けても、何に使うの?」

と言ってきたから、あっけにとられ、

「そんなことを聞かれても……」

と言った。

「その通りだよ。いまもらってる金で十分だ。これ以上くれても、使えないから。そのかわり、休みの日は休ませてもらう」

と言った。けっきょく、言い込められたのはこっちのほうだった。