中国で小型車減税の恩恵を受け大躍進した日産自動車が7月、待望の新車を投入する。その新車とはコンパクトカーの「マーチ」。タイ、インド、メキシコでも生産され、世界160カ国以上で販売を予定する日産の世界戦略車だ。

 生産するのは、広東省広州市の東風日産(日産の中国法人)花都工場。同地区では5月から第2工場の建設もはじまっており、2012年には60万台以上の年産能力を持つ日産の世界最大拠点となる。「工場起工式典には広東省書記と広州市長に揃って参加してもらえた」(東風日産・中村公泰総経理)。地元政府の期待も高い。

 急拡大する中国自動車市場でヒットの鍵を握るのは、減税対象となる排気量1.6リットル以下であることと、価格設定である。09年の市場実績を見ると、従来トヨタやホンダといった日系が得意としてきた15~25万元の「上級車価格帯」よりも、10~15万元の「中間車価格帯」が前年比74.3%増と圧倒的に伸びているのだ。

 日産は「ティーダ」や「シルフィ」を始めとした、減税対象で中間車価格帯の車種を豊富に揃えていたのが功を奏し、09年は当初計画38万8000台を大きく上回る51万9000台を販売。日系トップに躍り出た。

 しかし、今回、日産が投入するマーチは、これまでの中国での売れ筋とは異なる。従来は、排気量は小さくても見栄えのするセダンでないと主流にならなかったが、マーチはコンパクト・ハッチバック。ところが、これが若者の人気に火をつけそうだ。ターゲットは大学生や若いファミリー。カルフールやメトロといった外資系スーパーにクルマで買い物に行くのが流行りのライフスタイルとなっているのだ。

日系サプライヤーに
地場材料調達を促す

 決め手となる価格は、ラインナップで最廉価の7万元台を設定。低価格を可能にするのが、徹底した部品や材料の現地調達である。すでに部品の現地調達率は90%以上に高めており、輸入部品に比べて1台あたり4割以上のコスト削減に成功している。

 ただ、そうはいっても調達先は中国に進出した日系サプライヤーが大半。そこで、次の段階として取り組んでいるのが、その日系サプライヤーに中国企業から材料やパーツを調達してもらうことである。「設計・開発から実験設備の貸与まで日産が支援。項目ごとに認定制度を設け、クリアしてもらっている」(東風日産・山西政博購買本部長)。

 たとえばサスペンションを納めているヨロズには、鉄板の調達を新日本製鐵から宝鋼集団へと切り替えてもらった。重要保安部品であるサスペンションの品質とコストを両立させるために、日産、ヨロズ、宝鋼の三社で共同開発し、成形のしやすさと強度について最高品質である新日鉄の伸張率36%に近づけようとプレス圧力や金型を変え、何度も試行錯誤を重ねた。その結果、当初、29%だった宝鋼の伸張率は34%に高まり、見事採用されることとなった。

 広州萬宝井汽車部件(ヨロズの中国法人)の三浦聡総経理は「今年中に8割程度まで切り替えたい」と意欲を見せる。

 商品力に加えて日産が強みを発揮しているのが、内陸部や地方の2級、3級都市に積極展開できる販売網と、地道なブランド強化活動だ。四川省や江西省など内陸部の乗用車需要は前年比70%前後で急成長しており、沿岸部のそれを大きく上回る。日産の販売店400店のうち7割以上が2級、3級、あるいはもっと小さな都市にあり、2010年もこうした都市を中心に450店まで増やす計画だ。