ベンチャーが注意しなければ痛い目に遭う「たったひとつ」のこと

「かわいすぎる女子高生社長」として注目されている椎木里佳さん。パパは「鷹の爪」で有名なコンテンツ会社「ディー・エル・イー」の椎木隆太社長です。

 早くも増刷が決まり好評の『女子高生社長、経営を学ぶ』(ダイヤモンド社)は、上場企業の社長であるパパの「起業から上場まで」のストーリーを追いつつ、ビジネスの肝がわかりやすく学べる1冊。本連載はその中から一部をご紹介します。

(取材・構成:佐藤智、竹村俊介、撮影:小川孝行)

「誰にお金を出してもらうか」を戦略的に考えよ

里佳 あと、経営者として落ち度があったなと思う部分は?

パパ グイグイ聞いてくるなあ……。

 まあ、やっぱり大資本から守るアイデアがない裸の状態で、調子に乗って事業を進めていた脇の甘さが最大の落ち度。あとは、20パーセントの資本の意味とかがわかっていなかったんだよね。「一番の株主なんだから、絶対一番で、俺、社長でしょう?」って。そもそも80%の株主は敵になる可能性があったのに、その状況を分析する知識すらなかった。

里佳 でも、それって、走りながら学んで調整すればいいんじゃん?

パパ 資本政策って「イロハのイ」過ぎて、一度実行しちゃってからここをなんとか修正しようと思っても、もうできない。最初の時点で決まっちゃったらもう戻れない。だから、事業がはじまった時点でクビになるリスクはあったんだよ。

資本政策……会社をつくるときに「誰に」「どれだけ」お金を出してもらうかという戦略のこと。株主は、保有株式の割合が多くなればなるほど、会社に対して発言権を強める。だからこそ、この「お金を出してもらう割合」を間違えてしまうと、自分が社長なのに発言権が弱いといった問題が起きてしまう。

里佳 なんでそんなリスク負ったの?

パパ いや、だからそれはわからなかったから。

里佳 知らなかったから?

パパ 知らないっていうか、「筆頭株主の社長だから、無敵じゃん!」ぐらいに思っていたんだよね。

里佳 ふーん、じゃあ起業するにあたってこれだけは知っておけっていうことって?

パパ資本政策だね! 僕は、大失敗したからね。

里佳 私にもすごく言うよね。私の会社に「出資したい」って言ってきた人がいたとき、「資本政策だけは、よく考え抜かずに結論だしちゃ絶対ダメ」って言ってたよね。

資本政策は会社のメッセージ

パパ 資本政策でミスると取り返しがつかない。そこがまさに僕の失敗からの学び。

 DLEの資本政策を練るときも、僕とか椎木家の株式比率のバランスをすごく意識した。株主になってもらっている人たちも厳選した。玩具メーカー、広告会社……ようするに、株主構成や株式比率って「会社からのメッセージ」をものすごく表すものなの。

里佳 「どんな人に株主になってもらうか」がメッセージってこと?

パパ そう。だから、DLEは超こだわってる。あと、社外取締役に戦略的にどうしても必要な会社から役員を送ってもらったりとかね。

社外取締役……その会社とは直接の利害関係がない社外の人物(有識者や経営者)から選ぶ取締役のこと。取締役会の監督機能の強化が主な目的。社外取締役を採用することで、透明性の高い監視機能が持てるとされる。また、新たな発想を取り入れるために導入する企業も増えている。

 たとえば、DLEは世界戦略上どうしても世界トップクラスの玩具メーカー&IP(知的財産権)ホルダーであるアメリカのハズブロ社の協力が必要だったから、ハズブロ社から5%程度の出資をもらって、そこのナンバー3がDLEの社外取締役になって活躍してくれている。

 そうやって考えて編成しているから、ベンチャーとしては珍しく、東京証券取引所の人からも「ベンチャー企業なのに、資本構成もメッセージ性があるし、5人の役員中、社外取締役が二人もいて超優秀だね」って言われたぐらいだよ。

 株主とか役員って、会社のフィロソフィーというか、ビジョンを体現しているもの。そこは本当に、新しく起業する人みんなにこだわりまくってほしい部分。

里佳 なるほどね。それを知らないと、パパみたいな大変な目にも遭うと。

パパ ほんとだよ。自分の株式の保有比率が、まだ初期のうちから20%しかないとか、VC(ベンチャーキャピタル)にかなりの割合を握らせちゃったりとかっていうのは、将来が思いやられる。見る人が見れば、経営者の未熟さがすぐわかっちゃう。「株主にこの会社をこういう考えで入れている」っていうところに「あんたの会社、それ、賢いね」とか、「素晴らしいですね」って言われるぐらいの、ストーリーがないとダメだと思う。

VC(ベンチャーキャピタル)……これから大きく成長するであろう企業に対して投資を行う、投資会社・投資ファンドのこと。資金を投下するのと同時に、コンサルティングを行うなどして、投資先の会社の成長を促す。

里佳 すごい考えてるんだ。

パパ 上場前は株主を選べるわけだけど、株主を選ぶときも「なんとなく」ではなくて「この人たちだから大丈夫」っていうロジックを大切にした。ビッグネームだから入れるとかじゃなくてね。本当にそこは超重要。

里佳 パーティとかで私に「出資しますよ」って言ってくる人に、パパが「まあまあ」みたいな感じで煙に巻いてるのはそういう意味なのね。

パパ うん、そうね。

だますなら、まず身内から?

里佳 資本関連の話とか、まったくわからないからな。でも、相談できる人は身内だって思ってる。パパも、「新しくチャレンジするときにお金が必要なら、まず最初に身内からお金を借りなさい」って言ってるよね。「まずは家族をだましなさい」って(笑)。

パパ そう。パパも自分の親や兄弟に「絶対大丈夫だから」って適当なこと言って出資してもらった。VC(ベンチャーキャピタル)も相手にしてくれないほどの状況だったしね。やっぱりお金を出してもらうということは、大きな責任を負う。成功の見込みと自信がなければ、軽々しく他人のお金を資本に入れるべきではない、と思うんだ。

里佳 確かに私の会社の状況も、まだまだハイリスクな状況だからな〜。自信はあるけど、やっぱり他人の大切なお金はね〜。お金出されて、細かい指導やお叱りがいろいろ入ったら誰の会社かわかんなくなるし。

パパ まあ他人の資本を入れるってことはそういう責任が発生するってことなんだよ。

里佳「大きなチャレンジをする前や上場直前とか、ビジネス的に将来一緒にできそうな大きなところからお金を入れるというのはあり」って言ってたよね。まあ、まだ大きなチャレンジはしていないけど、「お金が必要ならまずは身内」っていうことは覚えとこ。

パパ とはいえ、他人から出資してもらって生まれる責任感やしびれる感じってのも経営者として育んで欲しい。ちょっと言ってること、矛盾するけどね。

人は失敗からしか学ばない

里佳 パパは失敗からかなり学んだんだね。

パパ そうだね。だから里佳にも「一回くらい大失敗したほうがいいんじゃないかな」と思うことがある。痛い思いをして、はじめて気付くこととか学ぶことってたくさんあるから。すべてが絶対無駄にならないわけだから、本当は失敗したほうがいい。

 とはいえ「ちゃんと押さえておいたほうがいいよ」っていうことは、先に言いたくなるんだけどね。でもできるだけ言わないようにしてる。

里佳 ほんと最近はあんまり教えなくなったよね。

パパ よく人から過保護じゃないかって思われたりするけど、実は直接的にはあんまりアドバイスしてなかったりもするよね。門限とかお金関連の基本的なルールだけ決めておいて、あとは放し飼い。細かいことは、ほとんど言わない。

里佳 昨日とか、なにも喋らなかった。友だちとのご飯から帰ってきて、10時半ぐらいで。いた? 寝てた? もはや。

パパ どうだったかな?

里佳 みたいな、そういうレベルだよね。日常会話ぐらい。

パパ 「こういう仕事はどうしたらいい?」「それはこうしたほうがいいんじゃないの」みたいな、そういった行動する前の心構え系の話は最近まったくしないね。

里佳 うん、実行したあとの愚痴や感想を聞いてもらったり、なんかもっとおっきい話が多くなってきた。

パパ 確かにね。PDCAサイクルのPDするときの相談からCのときの相談が多くなってきたね。大きい話は、それこそ資本政策の話とか。あとは放し飼い。

里佳 パパはあんまり私に仕事のことを言わないって意識してた?

パパ うん。いちいち細かくマネジメントした部下とか子どもって、まともに育たないと思うんだよね。だから、「ここからここは危険地帯よ」っていう大枠や最低限のルールを伝えればいいかなって。

 十分すぎるぐらいの広いフィールドで野放しにして、「ここを出たらまずい」ってことだけ教えてあげる。あとは自分の思うようにやってごらん、と。

 里佳が最初の1年半とかでした失敗って僕からすると、だいぶミニチュア版の失敗だとは思うけど。でも、そういうことから一つひとつ学んでいくことは大切にしてほしいよね。

里佳 いや、結構な学びだったって。

パパ うん、うん。もっともっと仕事が大きくなって、もっともっと多くのお金とか人を巻き込めば、その失敗の幅とか痛みの大きさが、強烈になっていく。「あのころはすごく大きな学びと思っていたけれど、今回のこの学びと比べたらクソだったな」みたいな。振り返ってみれば、たぶんそうなると思うよ。

里佳 ふーん、そういうもん?

パパ でも、今の時点では十分な、高校生でこれだけの経験ができたんだから、本当に最高の学びができたってところにはいると思う。いい感じなんじゃないかな。

里佳 今の時点では若者を代表する一人になれている実感があるけど、伝説になるには、まだまだこれからだから、もっともっと頑張るね。

ベンチャーが注意しなければ痛い目に遭う「たったひとつ」のこと

※明日に続きます