安倍政権がアベノミクス第二ステージの目玉政策として掲げているのが、「一億総活躍」だ。とりわけ、子育て支援や社会保障を通じて、女性が社会で活躍できる機会を増やすことに重点が置かれている。一億総活躍社会は本当に実現できるのか。これまで女性政策に力を注いできた野田聖子・自民党前総務会長が、一億総活躍の理想と現実、課題と希望を鋭く指摘する。次期自民党総裁選への意欲も見せる野田議員が描く、真に国民全てが活躍できる社会の姿とは、どんなものだろうか。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也、週刊ダイヤモンド論説委員 原英次郎、撮影/加藤昌人) 

「一億総活躍社会」の実現は
そもそも政治家の当然の義務

――安倍政権はアベノミクス第二ステージの目玉政策として、「一億総活躍社会」を掲げています。この政策をどう見ていますか。

野田聖子・自民党前総務会長が斬る<br />「一億総活躍」の行方(上)野田聖子(のだ・せいこ)
1960年生まれ。上智大学卒。87年岐阜県議会議員選挙に自由民主党公認で立候補し、史上最年少で当選。93年第40回衆議院議員総選挙に岐阜一区から立候補し、初当選。以後7回当選。内閣では郵政大臣(史上最年少)、内閣府特命担当大臣(科学技術政策・食品安全担当、消費者担当)を、自民党では国会対策副委員長、政調副会長、筆頭副幹事長、総務会長を歴任した。2005年自民党を離党し、06年に復党。少子化、男女共同参画、選択的夫婦別姓などに関する政策に造詣が深い。自身の不妊治療や子育ての経験もメディアで公表し、女性の働き方に対して問題提起を続ける

 安倍総理は、国政に携わる者として当たり前のことをおっしゃっているに過ぎない、という印象です。なぜなら国会議員の仕事は、国民全てが活躍できる社会をつくることだからです。「一億総活躍」という看板のインパクトで、「相当すごいことをやるのではないか」と思った国民もいるかもしれませんが、我々国会議員にとっては当たり前の義務なのです。

 しかし、「一億総活躍」という言葉がクローズアップされたことによって、できることとできないことがよく見えてきました。アベノミクスが始まった当初、国会議員、経済人、学者の多くが、金融政策などによって優良企業の利益が大きく増えれば、良い影響が川下にも波及するというトリクルダウン理論を唱えていましたが、3年経った今、期待していたようなことは起きていません。

 むしろ、アベノミクスによって、女性、高齢者、そして地方に住む方々の生活が苦しくなりました。大企業は円安などで自分たちに利益が生まれても内部留保に走るためトリクルダウンが起きず、低所得者層にまで恩恵が及ばない。先進国ではあり得ないほどの逆転現象が起きています。政府が「大きな人たち」を支えても日本は良くならないということが、分かってしまったわけです。

 最近では、トリクルダウンを唱えていた竹中平蔵さん(元経済財政政策担当大臣、元金融担当大臣)までもが、「トリクルダウンなんて起きない」とメディアで発言されています。こうなると国民は、「アベノミクスが全てではない」という現状認識を持つことが大切です。アベノミクスには経済的にプラス効果もありましたが、マイナスの部分もあった。第二ステージの最優先課題は、そのマイナスとプラスを相殺して、何とかイーブンまで持って行くことに他なりません。そのような状況の中で出された「一億総活躍」というキャッチフレーズに、私は疑問を抱いています。