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田岡俊次の戦略目からウロコ

北朝鮮が発射したテポドン2改はミサイルではない

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第63回】 2016年2月11日
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 北朝鮮は2月7日午前9時30分(日本時間)頃、黄海岸の東倉里(トンチャリ)付近の「西海衛星発射場」から、米国が「テポドン2(改)」と仮称しているロケットを発射、北朝鮮中央テレビは午後0時30分、地球観測用の人工衛星「光明星4号」の打ち上げに成功した、と発表した。

 米国の戦略軍統合宇宙運用センターも2個の物体が周回軌道に乗り、その1個が衛星、と発表している。「地球観測衛星」すなわち「偵察衛星」がその機能を果たせるか否かはまだ不明ながら、人工衛星が打ち上げられたことは事実のようだ。

弾道ミサイルではなく
衛星打ち上げロケットだった

北朝鮮は「打ち上げは完全に成功」と発表 Photo:KFA

 日本では「衛星打ち上げと称する長距離ミサイル発射」という政府の年来の表現に新聞、テレビもそのまま従っているが、現に人工衛星が打ち上げられると「衛星打ち上げと称する長距離ミサイル発射で人工衛星打ち上げに成功」という妙な話になってしまう。

 このため、朝日新聞は米戦略軍が7日に人工衛星が軌道に乗ったことを発表していたのを、9日朝刊外報面のすみに1段で「地球周回軌道に2つの物体乗る。米報道、ミサイル発射後」と小さく伝え、8日の読売新聞朝刊も衛星を「搭載物」と書くなど、衛星隠しに努めた。政府の表現に盲従したのは大本営発表を流したのに似ている。

 米国などのメディアは「人工衛星打ち上げ用」にも「弾道ミサイル」にも共通する「ロケット」と報じてきた例が多く、その方が正確で無難な表現だ。

 北朝鮮は2012年12月12日にも今回と同じコースで人工衛星を打ち上げ、それが周回軌道に乗ったことを北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)が確認していた。打ち上げ自体は成功だが、日本ではこのことが小さくしか報じられなかったため、知らない人がほとんどだ。ただ、この衛星は全く電波を出していない。偵察衛星なら画像をデジタル通信で送る必要があるし、国威発揚なら国歌でも流しつつ周回しそうだが、通信機が故障し制御できないのではと思われる。

 今回のロケットは地球を南北方向に周回する「極軌道」に乗るよう、南に向けて発射され、その9分46秒後に高度500km付近で水平に加速して人工衛星を放出している。この飛翔パターンから見て、人工衛星を上げるための発射であったことは疑いの余地がない。長距離弾道ミサイルなら上昇を続けて高度600kmないし1000km付近で頂点に達し、放物線を描いて落下する。

 宇宙の状況を監視している米国の戦略軍統合宇宙運用センターは7日「2個の物体が周回軌道に乗り、うち1つは衛星、他の1つは3段目のロケットの燃え殻」と発表し、衛星に「41332」、ロケットに「41333」の認識番号を付けた。

 北朝鮮が「光明星4号」と命名したこの衛星は、赤道に対する傾斜角97.5度(ほぼ南北)、高度約500km、1周94分24秒で周回しているとされる。地球は東西方向に自転しているから、南北方向に1日約15周するこの衛星は世界各地の上空を1日1回は通ることになる。だがこの衛星も前回同様、電波を出しておらず、回転している様子で、少なくとも当面、姿勢制御ができていないようだ。

 北朝鮮はこれを「地球観測衛星」と称しているが、その軌道や高度は偵察衛星と同じだ。重量は200kg程度と推定されており、それが正しければ大型の望遠鏡を付けたデジタルカメラは積めず、解像力はごく低いだろう。米国の偵察衛星は11tから20tで解像力は10cm程度、日本の情報収集衛星は2~3tで50cmないし1mと推定されている。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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