かつての人気テレビ番組「マネーの虎」で、独特のオーラを放っていた南原竜樹氏を覚えている方も多くいらっしゃるだろう。成功者というイメージのある南原氏だが、つい数年前には60円のパンを買うにも躊躇するほどのどん底に落ちた経験をしているという。奇才なビジネスセンスを持つ南原氏に、会社とともに歩んできたこれまでの軌跡と仕事をする上でもっとも大切にしている信条を伺った。(聞き手/小林昇太郎、撮影/蛭間勇介)

――今までいろいろなご経験をされてきたと思いますが、これまでのキャリアについて教えてください。

南原竜樹/1960年名古屋生まれ。学生時代にひとりで高級外車の並行輸入を起業して以来、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン、フランス、メキシコ、アラブ首長国連邦、マレーシア、韓国、香港など世界中を駆けまわる。各国の通貨危機や為替のデリバティブ取引を利用して、中古車屋からディーラー、インポーターへと華麗な事業展開を行い、2004年度には売上げが100億円を超える。2002年春から2004年3月の番組終了まで『マネーの虎』に出演し、一躍有名人に。2005年3月、英国MGローバー社が経営破綻。MG Rover Nipponの業務終了を余儀なくされるが、そこから勢い良く事業を巻き返し、現在は更なる新規事業への参画を図っている。「人生、めちゃめちゃ楽しんでるよ」と言い放つ、まさに「虎」の名にふさわしい豪快なビジネスマンである。

 僕は就職も転職経験もない、ずっと「オートトレーディング」っていう会社をやってきてる。アルバイトはたくさんしたけど、履歴書に書くようなキャリアってないんだよね。「南原=オートトレーディング」だから。

 最初、名古屋で「自動車屋さん」を始めた。それから人を雇うようになって、東京と大阪にも店を出した。当時、僕らはバブル前の丁度いいタイミングでフェラーリの仕入れを始めて、そのままバブル景気に乗って予定通り見事に売れていった。

 でも、ある日ふとオランダのチューリップバブルの話を思い出して、この業態もこれからどんどん淘汰されて厳しくなるんだろうなと思ってね。一気にフェラーリの在庫を全部売り払ったんだ。そしたら、その後にフェラーリの価格の大暴落がはじまった。今思えば、そんなに大きい会社じゃなかったけど、その頃の会社規模が一番居心地よかったね。

日本で初めて民事再生法が
適用された買収劇

 でも、今後この業界で生き残っていくために、在庫が共有できるメリットを活かして、規模を拡大していこうと全国展開していった。業種的にも川上に出て行こうとショールームだけじゃなくディーラーもやって行こうとした。そうしたらそこでチャンスがきて、チェッカーモータースの案件が舞い降りてきた。当時チェッカーモータースは創業40年くらいの老舗で、アルファロメオのディーラーでは日本一だった。結果、それが日本で初めて民事再生法が適用された買収劇だったんだけどね。

 その勢いに乗って名古屋のアルファロメオのディーラーも買収。次に大阪のディーラーも買収しようと計画。更に川上を目指している我々は、インポートもやりたいということでローバー、TVR、ロータスを扱うようになった。会社の売上利益は100億を超えていた。

 じゃあその次は上場だ…と思っていた矢先の今から5年前にローバーがつぶれて、数千台の在庫が全部ただの鉄クズになってしまった。あっという間に特別損失25億ですよ。うどんの玉の仕入れができないのにうどん屋をやっている状態だよね(笑)。みんなは会社がつぶれるだろうと思ったんだけど、それから僕は3週間くらいでいろいろと計画を練った。まず我々は会社の規模を小さくしようとした。