「正社員化をニンジンにしてノルマ達成の重圧は増すばかり。やってられませんよ」
亀井静香前郵政改革担当大臣の“亀のひと声”で、非正規職員10万人の正社員化を掲げた日本郵政グループ。勤続3年以上、週30時間以上勤務などの受験条件を満たすのは、全体で約20万人いるうちの約6万5000人といわれる。
だが、非正規職員は、「希望者全員を正社員化するかのように言っているが、説明会では、何人を正社員にするのか、筆記・面接試験の合否基準は何かすら教えてくれない」と嘆く。
実際、現場では、合格者の恣意的選別の権限を持つ支店長(上の資料参照)を筆頭に幹部が、「採用人数は未定だ。優秀な人間だけを正社員化する。決め手になるのは“営業”実績だ」と非正規職員の尻をたたき続けている。
“営業”とは郵政の隠語で、ゆうパックやかもめーるなど、季節ごとに課される販売ノルマのことだ。郵政では正社員だけでなく、非正規職員やアルバイトにまで、「自主的努力目標」と称してさまざまなノルマを課している。だが、現実には、ノルマを達成できずに自腹を切る“自爆”が蔓延している。
加えて選挙活動参加の締め付けも厳しくなった。亀井氏が率いる国民新党は、日本郵政グループの組織内候補として郵政の最大労働組合「JP労組」の元副委員長を参院選に擁立している。「参院選公示前に立候補予定者(当時)が勤務時間内に局舎内で堂々と挨拶していた。選挙活動への参加も事実上のノルマだ」と職員は怒る。
日本郵政は労組からの採用人数の問い合わせにもいっさい答えないため、労組幹部は、「採用人数は参院選の結果次第だろう」と見る。
そもそも、正社員化といっても、これまで郵政は民営化へのスリム化と称して非正規職員、とりわけ賃金が高くなったベテランや病休、産休歴のある職員を徹底的に雇い止め、つまりは首を切って回った。それが、一転、今度は正社員化を推し進めるというのだから、現場の非正規職員は怒り心頭だ。
しかも、正社員といっても、採用時の基本給の上限は18万2000円と定められている。これでは、中高年の非正規職員は正社員になっても待遇はほとんど向上しない。「これは実質的な中高年職員の排除策だ」との声も出る。
すでに6月28日には登用試験の応募が締め切られたが、日本郵政は申し込み人数もいっさい公表しない。労組幹部はすでに諦め顔だ。
「応募者はせいぜい対象者の半分の3万人くらいだろう。はたしてそのうちの何人が正社員になれることやら。甘い夢だけ見させて、また使い捨てるつもりだろう」
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小出康成)