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サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか
【第12回】 2016年2月23日
著者・コラム紹介バックナンバー
青野慶久

大企業でももうすぐ起きる、働き方の変革。
「自立」と「社会参加」がキーワードに
東京糸井重里事務所CFO・篠田真貴子×サイボウズ社長・青野慶久

働き方が大きく変わろうとしていることを、いま多くの日本人が予感している。政府が女性のみならず、高齢者も含めた1億総活躍を掲げ、多くの企業が新たな制度を模索し始めた。
そうした世相を反映し、ビジネス書の世界でも、「働き方」をテーマにした本が、静かなブームとなっている。『チームのことだけ、考えた。』の著者・サイボウズの青野慶久社長と、『ALLIANCE アライアンス』の監訳者である篠田真貴子氏のやりとりからは、新しい働き方の方向性が見えてくる。
(取材・構成:「週刊ダイヤモンド」清水量介)

ワークスタイルの変革に必要な三つの要素

──子育てをする女性が働きやすい制度や在宅勤務の導入、男性の育児休暇取得推進など、多くの企業がこうした取り組みを強化しています。国も女性の活躍を提唱し、メディアでの扱いも増えています。なぜ、今、働き方が注目されていると思いますか?

青野 確かに、2014年の後半から、空気が変わってきたと感じています。

篠田真貴子(しのだ・まきこ)1991年日本長期信用銀行に入行。米国の大学でMBAを取得後、マッキンゼー、ノバルティス・ファーマ、ネスレを経て2008年に東京糸井重里事務所に入社、09年よりCFO。監訳に人と組織の新たな雇用形態を紹介する著作『ALLIANCE アライアンス』(ダイヤモンド社)がある。

篠田 私も知り合いからの相談や、こうしてメディアから声を掛けていただく機会が増えています。
 女性の働き方に関して言えば、それこそ、平塚らいてうの時代から問題意識としてはあったんですよね。それが、政府が「女性の活躍」と明確に打ち出したことで、話題にしやすくなったのかなと。

青野 私は、単純に労働力不足が大きいかなと分析しています。
 IT業界の一部は、海外に委託できます。しかし、サービス業などは、国内で事業をするしかないわけで、外国人労働者もそれほど数がいないとなれば、基本的には日本人の取り合いになる。
 少し前までブラック企業として有名だった企業が、急に柔軟な働き方を提案するようになって驚きましたが、それも人が採れなくなったからだと思います。

──だとすると、また不景気になって人を採用しやすくなると、企業の姿勢は戻るのでしょうか。

篠田 いえ、もちろん、今後も好不況の波はあると思いますが、基本的には、今、起こっている働き方の変化は続いていくと思います。
 というのも、人を採りづらくなるという企業側の事情に加えて、働く個人側も変わっていますよね。
 単にお金がもらえるから働くというだけじゃなくなってきている。今や自分の親世代に比べて、寿命も“健康”寿命も働く期間も、圧倒的に長い。どうすれば自分が成長できるのか、そのためにはどのような働き方が必要なのかを真剣に考え始めています。
「成果を出すには、何も、9時〜5時じゃなくてもよくない!?」と思う人や経営者が増えてきていて、実現可能な職場から変わっている、というのが今の状況ではないでしょうか。

青野 私は、ワークスタイルの変革には三つの要素が必要だといつも言っています。
 一つ目は「ツール」の導入。パソコンがなければ在宅勤務ができない。二つ目は「制度」です。家で働く人の成果をどう評価すんのよ、と。この、一つ目と二つ目は、やろうと思えば、比較的すぐ実現可能です。
 しかし、三つ目の「風土」は、簡単にはいかない。「在宅勤務をやるようなやつは、窓際族だ」というような価値観がありました。
 でも、ここを変えられる企業が増えてきた。サイボウズでも社長の私が育児休暇を取って以降、男性が育児休暇を取得しても後ろ指をさされることはありません。

日本企業も困れば変わる

──それでも現状では、柔軟な働き方の制度を導入しているのは外資系やベンチャーが目立ちます。日本の大企業が変わるにはどうすればいいのでしょうか。

青野 外から人を呼べばいいのです。カルビーやLIXILグループなどは、歴史のある大企業ですが、外部から来た幹部が柔軟な働き方の制度を導入していますよね。
 とはいっても、確かに大企業は変われないかなと思うこともありますよね……。

青野慶久(あおの・よしひさ)松下電工を経て、1997年にサイボウズを設立、2005年より代表取締役社長に就任。グループウエア事業を展開し、06年に東証1部に市場変更。給与体系や勤務体系、勤務場所などの選択肢が多様な、国内では先進的な人事制度を導入している。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。

篠田 大きくても小さくても企業というのは、結局、社長の独裁なんです。トップに変えようという意思がなければ、例えば、一つの事業部などで進んだ取り組みをしていても、部長が代わればまた元に戻ってしまう。
 でも、変わらない会社って、裏を返せば、困っていない会社だと思うんですよ。
 だって、働き方を変えるって、それ自体が目標ではなくて、その結果、人材の採用が有利になるとか、生産性が上がるとか、活力のある会社にするためなわけで。

青野 その通り。もうとにかく、残業が多くても、なぜか就職先としては人気で、体育会系の学生が続々と入社してくるなら、企業は変わる必要がない。
 実は、サイボウズも困ったから変わったのです。10年前に、離職率が28%になって人材難になってしまった。そこから10年かけて変えてきた。

篠田 日本の大企業も人材が確保できず追い込まれたら、変えると思います。

青野 もう一つは、グローバルに揺さぶられることもきっかけになるでしょうね。日産自動車の幹部の方と話していたら、ルノーに買収され、フランス人幹部が乗り込んできたけど、彼らは夕方、早く帰っちゃうと。そこで、「あれ? こんな働き方もあるんだ」と衝撃を受けたそうです。

篠田 それはありますね。日本にある外資系企業で柔軟な仕組みが目立つのも、グローバル展開しているからです。世界160ヵ国で展開しているような企業は、いちいち日本の風土に合わせて細かいルールを作っていられない。「好業績さえ出してくれれば、後は自由でいいよ」と。

青野 ただ、日本の大企業もいつまでも悠長に構えていられないはずです。だって、僕が生まれた同じ年には200万人の子どもがいたけど、今は100万人と半分。働く人が減っていくんです。

篠田 それと、最も人口が多い層が抱える課題というのが、その国のムードをつくると思っています。あと10年もすると、第1次ベビーブーマー世代で介護が必要な人が増える。で、そのとき、その世代のお子さんは40〜50代で会社の中枢にいるわけです。どの会社も、リアルに「どうすんのよ、これ!」となるはずです。

──遅かれ早かれ、企業側の制度や、働く人の意識が変わっていくとするなら、両者の関係はどのように形になっていきますか。

篠田 「自立」がベースとなると思います。一口で言うと、「自分でここを選んでいる」と認識するようになる。
 人間関係でも、気が合えば仲良くなるし、そうじゃなければ疎遠になります。本来、職場と人の関係も、お互いが選び続けている間は関係が成立するけど、離れることもあると。
 でも、今多くの日本企業で働く人はそうじゃない。私は、大学を卒業して、長銀(日本長期信用銀行)に入行したのですが、当時の同期の男性に多いのが、これで一生安心と22歳で思考が停止しちゃうパターン。

青野 まあ、就活時の“選んだ”って意識は続かないですよね。

篠田 でも、高度成長期と違って、伸びる会社、つぶれる会社がはっきりしています。つぶれなくたって、寿命と働く期間が長いわけですから、その間に会社の主力事業がまったく違うものに何度も変わることは珍しくなくなるでしょう。
 何も、子育てとか、介護を経験しなくても、仕事や働き方って、どんどん変わっていくんですよ。
 それなのに、今は鍛えられていない。学校って何かを与えられる所なんだけど、会社は自分で選んでいて、与えてくれる存在ではないはず。ほんとは、社会人2〜3年目に「今の状況は自分で選んでいる」という感覚をつかまないといけないと思うんですが、大企業ではなかなかそれが実感しにくい。

青野 確かに……。自分も松下(電工)時代は、人事制度に対してブツブツ、いつも文句を言っていました。

篠田 私の世代だと、女性の方が“選んでいる”という感覚は意識しやすかったかもしれませんね。
 1986年に男女雇用機会均等法が施行されて、まだ数年のころ。就職活動の面接では、女性は総合職か一般職を選ぶんですけど、そのときに、総合職を選ぶと言うと、面接官の方から「お父さんは、何て言っているの?」って聞かれたんです(笑)。

青野
 えええ!? そんなこと聞かれたんですか。

篠田 はい(笑)。その後、結婚するときも、出産するときも「で、続けるの? 仕事」って周囲に聞かれるのは毎度のこと。だから、「自分は働くという道を選ぶんだ」と、主体的に意識せざるを得ない。

青野 なるほど。男はそこまで考えませんからね。レールの分かれ道みたいなのが、なかなか来ないですから。

篠田 そうそう。私の大学の同級生の男性も40代半ばになって自分がどこまで出世できるのか見えてきて、ようやく「俺、このままでOKなのか、それとも……」と悩み始めます。もう少し早く考えていれば、新たな分野に挑戦しやすかったかもしれませんが。

青野 日本人は選ぶことに慣れていないけど、これから、選択肢は増えていくから、“選ぶ力”を鍛えた方がいい。自分が選んでそこにいるということを、いつも考えるようになった方がいい。

空いた時間で社会と接する

──長時間労働は非効率だと、“残業ゼロ”を掲げる経営者は近年増えてきています。一方で、若いうちは働きまくった方が本人のためになるという意見もあります。

篠田 それはもう、さっきも言いましたように「自立」しているかどうかです。自分で選んでいるのか、と。外から見て、8時間だから健康、12時間だから不健康と一律には決められませんよね。
 しっかりとした目的意識があって、周囲もきちんとサポートしているなら、ある時期は長時間労働が続いても本人にプラスになる。でも、逆に6時間で帰れるとしても職場で孤立していて成長できないなら、それはブラックな働き方かもしれない。

青野 単純に「長時間をやめましょう!」ではなくて、それで浮いた時間で何をするか。残りの時間を何に充てるかという発想が大事です。結局、会社の仲間と毎日飲み歩くというのでは、意味がない。
 他の業種の人と会う、あるいは、家事育児で社会参加することも学びになります。

篠田 そうなんですよ! 子育てって社会人のスキルとして生きないわけがないんですよ。家庭で過ごす時間って“無”じゃない。

青野 ずっと仕事していると、社会人じゃなくて、会社人になっちゃうから。僕も若いころ、めちゃくちゃ働いていたけど、今、自分が若かったらあんなふうには働かない。社会のことを知らないと、これからはイノベーティブな仕事はできないと思う。

篠田 子どもを介して地域と接点ができると、気付かされることって、すごく多いです。お子さんがいなくても、介護や他のことでも同じでしょう。

青野
 だいたい、子育てに比べると、会社の人間関係って楽に感じますから。嫌だなあと思う相手でも「ちょっといいでしょうか、これやってくれないでしょうか」と丁寧に言えば、動いてくれます。でも、子どもに「ちょっと、歯を磨いてくれないでしょうか」と丁寧に言っても聞きやしない。

篠田 嫌いな上司でも論理は通じますもんね。子どもは台風とか、自然現象と同じですから(笑)。

青野 ちなみに、よく、自宅で働いたり長時間労働をしないという働き方のことを、“楽”だと勘違いされることがあるんですが、全然違う。柔軟と楽は違う。むしろ大変なんです。

篠田 それ、すごく分かります。今までは、時間割のある学校にいたようなものなのに、時間割だけじゃなくて学校すらなくなって自分で律する必要がある。やはり、自分の頭で考えて主体的に選ぶということが、これからの働き方では鍵になると思います。
 
※この記事は「週刊ダイヤモンド」2015年12月26日・2016年1月2日号に掲載されました。

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青野慶久 

あおの・よしひさ 1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、2015年11月時点で有料契約社は12,000社を超える。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)がある。


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