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かつて、社員の離職率が28%に達しサイボウズは、どのようにして社員が辞めない「100人100通り」の働き方ができる会社になったのか? その過程と、多様性をマネジメントする手法を詳細に記した書籍、『チームのことだけ、考えた。』より、サイボウズの創業期から会社の改革に着手するまでの部分を紹介する連載の第11回です。
サイボウズが辿り着いた「多様性」という答えの裏側を、「インクルージョン」などのキーワードとともに解説します。

「多様性」だけがなぜ残ったのか。
次の時代に求められるもの

 結局、最初に決めたこれらの言葉の中で、今でも残っているのは「より多くの人」の第二の意味として考えていた「多様性」だけだった。「多くの社員」「成長する」「長く働く」という言葉のほうが、一般的な企業経営では良い方針だと認識されているだろう。しかし、経営とは一番関係しそうになく、かつ全社の理想として掲げるほど重要でない気がする「多様性」だけが残った。

 なぜ残ったのか。それは、この「多様性」を追求することが、この7年間、楽しいことを引き起こし続けているからだ。山田はこの多様性を追求するにあたり、「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」という方針を併せて掲げた。メンバーを大きな塊として考えず、1人1人すべて違う個性ある存在として扱うということだ。

 メンバーの多様性を受け入れると決めてから、メンバーは何度も個性的な要求を突きつけてくれた。たとえば、週3日のペースで働きたいとか、オフィスはないが故郷で働きたいとか、旅行先で働きたいとか、他の会社と掛け持ちで働きたいとか、働く時間帯を明け方から昼までにしたいとか、次のボーナスはこの指標を基準にしてほしいとか。もらった要求にすべて応えられたわけではない。かかるコストやリスクを見ながら、グループウェア世界一に向けて効果を期待できることから進めた。まだまだ実現できていないことが多い。しかし、その過程も含めてワクワク感に満ちている。個別のニーズに応えようとすればするほど、社員のモチベーションが高まるのを感じた。

 これはいわゆる「ダイバーシティ経営」とはアプローチが違う気がする。ダイバーシティ経営では、現在の自社は画一的で多様性(ダイバーシティ)が欠けていると考えるところから始める。そこで、女性の管理職比率を高めたり、外国人の採用数を増やしたり、英語を公用語にしたりしながら、組織の中に多様性を作り出そうとする。この発想では、「日本人」や「男性」は1つのカテゴリであり、多様性のない塊として扱われる。経営者が意図するダイバーシティの完成形を目指し、号令とともに推し進めるこのやり方には、多様性とは異なる画一性を感じる。

 我々の発想では、まずすでに自社に十分ダイバーシティが存在すると考える。今、目の前にいる従業員がそもそも1人1人まったく違う存在だと考え、彼らの個性を制限している障壁を取り除いていく。すでに社員は多様であり、それを一律的な規則で働かせるのをやめるだけである。その結果、今いる社員がより自分らしく働けるようになる。そして、以前は受け入れられなかった人を採用し、活躍の場所を作れるようになる。言葉としては、ダイバーシティよりもインクルージョン(包括性、一体性)に近い。個性を受け入れる力だ。我々のミッションに共感してもらえるならば、毎日働きたい人でも週3日働きたい人でも、会社で働きたい人でも自宅で働きたい人でも、みんな仲間に加えられるのが理想だ。その1人1人が自分のペースに合わせて働けるよう、それぞれの事情にあった制度ができていく。それぞれが生き生きと働き、生き生きと生きる。

 我々のインクルージョン力もまだ発展途上である。サイボウズに入社したくても入れない人がたくさんいる。しかし、「サイボウズに入社できなかった」のではない。「サイボウズが受け入れられなかった」のだ。それが我々が目指す多様性のあり方だ。

 サイボウズはインクルージョン力が高まるとともに、多様な個性を持つ人が集う会社になってきた。多様な意見が集まるようになってきた。毎日、会社のあちこちで個性がぶつかり合って議論が繰り広げられている。毎日楽しくて仕方がない。面白過ぎる。もっともっと面白くしたい。多様な人たちと一緒に働きたい。いや、人でなくたっていい。動物や植物、宇宙人と働いてもいい。受け入れれば面白くなる。現代において、事業の成長や長期雇用は幸福感に直結するものではなくなっている。次の時代に何が求められるのか。その答えが「多様性」だと考えている。

多様性のマネジメント。
100人いれば100通りの人事制度を

 では、企業において「多様性」を実現するには、一体どういう視点でマネジメントしていけばよいのだろうか。ある社員が「この四角の枠が多様性の境目ですよね」と言って、ホワイトボードに四角を描いた。多様性を認めるからと言って、何をやってもよいというわけではない。サイボウズにおいては、「チームワークあふれる社会を創る」というミッションに共感していることが、四角の中に入る必須条件だ。多様性を実現するには、全体の理想に共感している必要がある。自然界に多様な生物が存在しうるのは、どの生物も自然界の掟を守ってきたからだ。これは非常に面白い表現だと思った。

 太陽系のような図を想像してもよいだろう。中心にあるのは共通の理想。強く共感している人もいれば、やや共感している人もいるだろう。共感の度合いによって、中心との距離が変わる。人事部門のマネージャーとして活躍する人もいれば、営業担当として活躍する人もいれば、外部スタッフとして協力してくれる人もいれば、社外のパートナーとして、株主として、顧客として、社外の一応援者として、距離をもってサイボウズと接してくれる。これが多様性のイメージである。

 マネジメントをするには、この人がどの距離で付き合いたいかを確認しながら、距離に応じた制度を用意しなければならない。今までの会社は、正社員全員に対して同じ制度を適用し、同じ働き方を強要してきたように思う。そして、その要件から少しでもはみ出しそうになれば、社内に置けない人として排除してきたのではないだろうか。

 我々の「多様性」の考え方は、その境界をより多段階に、そして多次元にするものだ。社員にもいろいろいる。社外の人にもいろいろいる。株主にもいろいろいる。正社員にもさまざまな契約形態があってよいだろう。社外の人でも社員と同じような福利厚生を受けられる人がいてもよいだろう。また、時期に応じて関係性が変化してもよいだろう。一度、距離を置き、また戻ってきてもよいだろう。戻ってこなくてもよいだろう。大事なのはミッションに共感し、そこに貢献する活動をしてもらえるかどうかだ。太陽の周りを回り続ける惑星のように、近付いたり離れたり、それぞれの距離感で接してもらえば何も問題はない。

 グループウェア世界一を目指すサイボウズをどんな組織にしたいのか。答えは決まった。「多様性」だ。このミッションに共感して集まった1人1人が自分らしくあること。そのために人事制度が足りないなら増やす。100人いれば100通りの人事制度を。1000人になれば1000通りの人事制度を。
 

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青野慶久 

あおの・よしひさ 1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、2015年11月時点で有料契約社は12,000社を超える。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)がある。


サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか

書籍『チームのことだけ、考えた。』は、社員の離職率が28%に達し、ブラック企業になっていたサイボウズを、“社員が辞めない変な会社”に変えた、理系社長の奮闘記です。
この連載では、その冒頭部分、創業期から会社の改革に至るまでの「前史」とも言える部分を公開します。

「サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか」

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