NTTはともかく、ソフトバンクの孫正義社長の快進撃で、その影に隠れていた感のあるKDDIの小野寺正社長兼会長。そんななかで、通信業界におけるチャレンジャーの元祖である小野寺社長が、大企業病、通信事業者の矜持、J:COM騒動、後継者問題などを存分に語ってくれた。
(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)
KDDI社長兼会長 1948年、宮城県生まれ。東北大学工学部電気工学科を卒業後、旧日本電信電話公社(現NTT)に入社。電電公社時代は、主に無線技術者として働く。84年、後のDDIの母体となる第二電電企画に転じる。97年、DDI副社長。2000年にDDI、KDD(旧国際電信電話)、IDO(旧日本移動通信)が合併。翌年に、現在のKDDIが発足し、NTTの対抗軸が誕生する。01年、KDDI代表取締役社長に就任。05年には社長兼会長職に。気分転換は、愛犬(アラレちゃん)の散歩。
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―最近のKDDIには、かつての“勢い”が感じられない。通信業界では、そのような指摘がある。小野寺さんは、“絶頂期”と比較して、現在の状況をどう見ているか?
これまで、KDDIには絶頂期はなかったと思う。
確かに、移動体通信(携帯電話)が急速に普及した1990年代後半や、2002~03年に第3世代携帯電話(3G)の立ち上げでNTTドコモに先行したこと、そして06年に「番号ポータビリティ制度」が導入された直後などは他社からの転入も多く、調子がよかった。
とりわけ、日本で最初に第3世代携帯電話を市場に投入して独走状態だった頃は、auの販売台数が一気に伸びた。当時最先端だった3Gのネットワーク(インフラ)を構築して、そこに魅力的な端末と各種のサービスを組み合わせて提供できたことで、会社も大きく成長することができた。
ところが、現在の状況について言えば、インフラでは競合他社も3Gネットワークを構築しているので、それほどの差がなくなってきている。そして、端末や各種のサービスについても、競合他社と似てきている。それが、お客様にとっての“目新しさ”を失うことにつながっていると思う。
―なぜ、そのような状況になってしまったのか?
KDDIという会社が“保守的”になってしまったからだ。全体がそうなってしまった。
本来であれば、会社が成長している時に、さまざまな改革に着手することが必要だと思う。だが、調子のよい時は、さらに伸ばしていくための活動を優先してしまうので、結果的に、改革が“後回し”になってしまう。
そういう時は、誰もが「調子がよいのに、何で変える必要があるの?」と考えがちだ。だが、お客様から見て目新しさがなくなっているという現在の状況を考えれば、成長している時に、もっと強引にでも「変えなければならなかったことを変えられなかった」というのが、勢いを失った本当の理由だろう。過去の“成功体験”が足を引っ張っている。そこに尽きる。