アップルとFBIの対立が、今後の国防対ユーザーのプライバシーのあり方を決定するような大きな問題にふくれあがっている。

 周知の通り、両者の対立は昨年12月、親ISISと見られる容疑者夫婦によって14人が銃殺されたカリフォルニア州サン・バーナディーノでの事件に端を発している。容疑者が警察によって射殺された後に残ったiPhoneのロック解除ができず、FBIがアップルに支援を求めた一件だ。

スノーデン事件で高まった
国家権力に対するプライバシーの懸念

 アップルは、FBIを支援することは、ユーザー全員のセキュリティーを危険にさらすと拒否し、連邦裁判所からのロック解除命令にも従わない姿勢で、「最高裁判所まで闘う」と決意は硬い。

 この対立は、言って見れば2013年に起こったエドワード・スノーデンによる暴露の自然の帰結と言える。NSA(国家安全保障局)が過剰な情報収集を行っていたことが明らかになって以降、アップルやグーグルなどのテクノロジー各社は暗号化を強化してきたのだ。

 スノーデン問題後、テクノロジー企業がNSAが情報にアクセスできる「裏口」を許してきたことが批判された。そのためもあって、テクノロジー企業は、暗号化を強化すると同時に、ユーザーに向かって対政府姿勢をアピールしなければならなくなっているのだ。

 問題のiPhoneは、パスワードの入力に10回失敗すると中のデータが消去されるしくみになっている。そのしくみがなければ、FBIはコンピュータを利用してランダムなパスワードを入力し続け、いずれ正しいパスワードに行き着くのだが、このしくみがある限りそうはいかない。

 実は、アップルはiOSの改訂によって、それを解除することが可能なのだが、同社はそうするとFBIがそのキーを他のユーザーのデータを入手するために用いると主張する。それだけでなく、ハッカーからの侵入に対しても脆弱になり、独裁国家や言論の自由を許さない国家などがこれを悪用するとしている。

 これは、サン・バーナディーノ事件を超えて、大きなプライバシー、セキュリティー、そして人権問題として位置づけられているのである。こうしたことを主張するアップルのティム・クックCEOは、ユーザーを代表する正義の味方として突然出現してきたことに世間は驚いているが、これはアップルでなかったとしても、いずれ起こったできごととも言える。