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安東泰志の真・金融立国論

銀行が痛みを負わないシャープ再建策について考える

安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]
【第67回】 2016年3月9日
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シャープの舵取りは、株主の利益を代表しない銀行が実質的に担ってきた

 経営不振に陥ったシャープの再建にあたっては、スポンサーの座をめぐって、台湾の鴻海精密工業(以下「鴻海」)と産業革新機構(以下「機構」)の競争になったが、2月25日、シャープの取締役会は全会一致で鴻海の支援を仰ぐことを決議した。

 その後も潜在的債務をめぐって協議が続いており、鴻海の再建案に修正が加えられる可能性があるほか、最終的に増資が実現するかどうかは株主総会で承認されるまで予断を許さないが、本稿では、「鴻海と機構の両案における受益者の違い」に焦点を当てて、その妥当性を検証してみたい。

株主利益を代表しない銀行が
シャープの舵取りを担ってきた

 シャープが数年前から経営危機に陥った直接の原因は、主として堺と亀山のディスプレイ工場への巨額な投資にあると考えられる。だが、経営の混乱の裏には元社長同士の確執があったと言われており、同社のコーポレートガバナンスに弱さがあったことは否めない。

 そこに、2013年6月、メインバンクであるみずほコーポレート銀行と三菱東京UFJ銀行が取締役を送り込んでいる。その後、人選は変化したものの、現在に至るまで銀行出身の取締役が2名いる状態に変わりはない。しかも、銀行から送られた取締役は常勤で経営管理・経営企画を担当する執行役員も兼ねており、経営の中枢を担うポジションを占めている。

 さらに、メガ3行が実質的に支配するジャパン・インダストリアル・ソリューション(JIS)からも現状2名の取締役が送られているので、13人の取締役のうち実に4人が銀行関係者ということになる。それに加え、銀行は長年、同社に部長級の人材も送っていたとされており、シャープの経営方針は銀行が決めていたと言っても過言ではない。

 もちろん13人中4人では多数を取ることはできないのだが、シャープはかつてのように資本市場から資金調達ができる状態ではなく、銀行からの融資で資金繰りを付けている状況にあるため、実態的には取締役会で銀行出身取締役の意に反する決議は取りにくい構造になっていたことは否めない。

 ところで、連載第54回で指摘したように、取締役は本来、株主の利益を代理するのが基本的な役割である。すなわち、取締役は株主から経営を付託された者(エージェント)としての責任(受託者責任)を負っている(エージェンシー理論)。したがって、取締役が会社をどのように経営するかということは、この受託者責任を十全に果たせるかどうかという観点から検討されなければならない。

 ところが、銀行出身取締役は、銀行の利害を代弁すると考えるのが自然であり、一義的には株主の利益より銀行の利益を優先することになる。ここにシャープの取締役会が抱えている根本的な利益相反構造がある。すなわち、シャープの舵取りは、株主の利益を代表しない銀行が実質的に担ってきたのである。

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安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]

東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。1981年に三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、1988年より、東京三菱銀行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。90年代に英国ならびに欧州大陸の多数の私的整理・企業再生案件について、参加各行を代表するコーディネーターとして手がけ、英国中央銀行による「ロンドンアプローチ・ワーキンググループ」に邦銀唯一のメンバーとして招聘される。帰国後、企画部・投資銀行企画部等を経て、2002年フェニックス・キャピタル(現・ニューホライズンキャピタル)を創業し、代表取締役CEOに就任。創業以来、主として国内機関投資家の出資による8本の企業再生ファンド(総額約2500億円)を組成、市田・近商ストア・東急建設・世紀東急工業・三菱自動車工業・ゴールドパック・ティアック・ソキア・日立ハウステック・まぐまぐなど、約90社の再生と成長を手掛ける。事業再生実務家協会理事。著書に『V字回復を実現するハゲタカファンドの事業再生』(幻冬舎メディアコンサルティング 2014年)。
 


安東泰志の真・金融立国論

相次ぐ破綻企業への公的資金の投入、金融緩和や為替介入を巡る日銀・財務省の迷走、そして中身の薄い新金融立国論・・・。銀行や年金などに滞留するお金が“リスクマネー”として企業に行き渡らないという日本の問題の根幹から目をそむけた、現状維持路線はもはや破綻をきたしている。日本の成長のために必要な“真”の金融立国論を、第一線で活躍する投資ファンドの代表者が具体的な事例をもとに語る。

「安東泰志の真・金融立国論」

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