3月16日に閉幕した全国人民代表大会(以下全人代と略す)で、中国の指導者は、減速を続ける中国経済という現実を前にして、今年は中国にとって困難な年であることを認め、今後厳しい舵取りを余儀なくされることを示した。

北京の人民大会堂で開かれた全国人民代表大会

 李克強国務院総理が政府活動報告を読み上げている間厳しい表情を見せていた習近平総書記は、代表たちの審議に積極的に加わって意見を聞き、経済分野についてもいくらか発言していた。それがメディアによって伝えられ、存在が一際目立った。

 また、3月9日付けの『人民日報』は、習総書記が政治協商会議に出席した中国民主建国会、中華工商業聯合会委員との会見の際のスピーチを掲載した。このところ、なぜ習総書記は経済分野においても活発に発言しているのだろうか。

市場主義的改革が後退し
習近平経済学にシフト

「経済は李克強、政治は習近平」

 習政権発足時にはそういう見方をする人が多かった。李総理は北京大学で経済学博士を取得したという経歴をもっているため、習総書記は経済分野での舵取りを李総理に全面的に任せており、棲み分けができていると見られていたし、筆者もそう見ていた。

 また、習政権成立当時は、経済の減速、景気刺激策に頼る経済政策からの転換の必要性、既得権益層にメスを入れることなど、これまでの政権が積み残した課題を処理する必要があった。2013年11月に開かれた第18期三中全会の「改革の全面的深化における若干の重要問題に関する中共中央の決定」は保守派の路線と改革派のそれが結合した産物だったが、そこには政府の役割を極力小さくし、債務の大幅な圧縮、経済構造改革を推進するという李総理の路線、つまり「李克強経済学(リコノミクス)」も反映されていた。

 例えば、三中全会の決定は、「企業が自主的に経営し、公平に競争し、消費者が自由に選択し、自主的に消費し、商品と生産要素が自由に移動し、平等に交換される」現代的市場の形成を急ぐことや、「市場によって価格決定できるものは市場に委ね、政府は不当な介入を行なわない」こと、「ミクロ的事柄に対する中央政府の管理を最大限に減らし、市場メカニズムによって効果的に調節できる経済活動はすべて審査・認可をやめる」ことなど、市場に信頼を置いた経済改革を模索していた。

 当時発表された習総書記の一連の講話などをみると、反腐敗闘争や党建設を語るときとは違い、経済分野では独自のカラーを出すことなく「資源配分における市場の役割を強化する」といった李総理の路線に沿った発言だった。

 だが、三中全会から2年余り経過したが、改革の必要性は絶えず強調されているものの、その歩みは遅くなっており、徐々に慎重な態度に変わりつつある。