世界に誇る日本の食品だが
「良い品」だけでは売れない現実

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 筆者の住むマレーシアは、日本人にも住みよい国だ。同じアジアであり、多民族が入り混じって暮らしているため、日本人も溶け込みやすい。加えて、マハティール元首相が推進した「日本を見習え」のルックイースト政策の影響もあって、非常に親日的である。ご飯も美味い。

人をヤル気にさせるには、少しの仕掛けで十分人に協力してもらうには、双方にメリットのあるwin-winの関係を構築する必要がある

 したがってマレーシアの、特に首都クアラルンプール近辺には日本人は多い。そのため日系スーパーやデパートもあり、日本人のみならず、マレーシア人にも人気だ。

 クールジャパン推進もあってか、そういったデパートでは時折、日本のデパートで見られるような「物産展」が行われる。日本の一地方の特産物を持ってきて、売るのである。

 日本で行うのとは違い、そういった特産品は輸入しなくてはならないため、割高になる。加えて、接客は英語になることが多い。日本人以外の富裕層もよく訪れるからだ。そういったローカルの金持ちに、日本の一地方での特産品を英語で説明するのは、なかなか難しい。

 例えば、「辛子明太子」を英語で説明することを考えてみるといい。ただ英語で説明するだけでは不十分だ。この場合は、明太子の説明がセールストークになっていなくてならない。明太子を全く知らないマレーシア人に明太子を理解させつつ、「美味しそう」と思わせるトークを英語でするのである。プロの翻訳家でも難しい仕事だ。

 このようなわけで、物産展を海外で行う際に、ひとつネックになるのは、製造元の日本人たちが尻込みしてしまうことだそうだ。それはある意味、当然だろう。ほとんどの人は、ローカルに根差した特産品を地道に作ってきた生産者なのだ。日本国内で売るならばともかく、いきなり異国に来て英語でセールストークせよ、と言われたら、やりたくなくなるに決まっている。

 ジャパンクオリティを世界に発信するというコンセプトは素晴らしいと思うが、こういった現場の問題をひとつひとつクリアしていく必要がある。これまで何度かマレーシアでの物産展やフードフェアなどを取材する機会があったが、いずれもそういった「現場」の問題がネックのひとつであった。