7月行われた参議院選挙は与党の過半数割れとなった。また衆参のねじれ現象が起きてしまった。国会運営は難しくなり、多くの議案が「たなざらし」にされる可能性が高まったように思う。だが、ねじれ現象は日本だけの問題だろうか。そうではない。オバマ政権も同じ悩みを抱えている。それでも、医療改革法と金融改革法という難しい法案を相次いで可決・成立させた。日本がアメリカの議院運営から借りる知恵は何だろうか。
オバマ政権が誕生した直後は、上院100議席のうち60議席を与党民主党が占め、下院でも435議席のうち民主党が257議席を占めていた。だが、マサチューセッツ州選出の民主党上院議員テッド・ケネディ氏(暗殺されたケネディ元大統領の弟)が2009年8月に死去して状況が一変した。上院の民主党の議席がひとつ減ってしまう可能性が出てきた。
もともとマサチューセッツ州は民主党の強い地盤であり、ケネディ氏の死去で空白になった議席を民主党の候補者が獲得すると予想していた。ところが、2010年1月に行われた補欠選挙で、共和党候補者スコット・ブラウン氏が当選してしまった。これで民主党59議席、共和党41議席になり安定的な議院運営をするのに必要な60議席を割ってしまった。日本と似たねじれ現象である。
この国の上院では、法案の賛成者が議員定数の3/5(100人X3/5=60人)に達するまでは、野党が議事妨害(Filibuster)できる権利がある。議事妨害とは長時間演説を延々と行う議事引き伸ばし戦術である。これでは2009年12月に上院を通過していた医療改革法案が廃案になってしまう。
ただ、ここに抜け道があった。この法案を予算法案として下院が再び可決すれば、上院の再議決を経ずに、大統領が署名して法律として施行できる。だが、オバマ大統領の基本案にいくつもの修正を加えても共和党の賛成を得られる見通しはまったく立っていなかった。それに加えて、民主党からも様々な理由で賛成しない党員が出てきた。
下院議長のナンシー・ペロシ女史(民主党)は過半数の賛成票の確保に東奔西走した。民主党の中の反対分子には、彼らの主張を呑みこみ何とか過半数を得られる状況に至った。下院で再び議決に入ったが、結果は賛成220票、反対211票の僅差での可決となった。こうして医療改革法は3月23日にオバマ大統領が署名し法律となった。