3月24日に発売された『週刊新潮』の記事で5人の女性との不倫が発覚し、大騒動になった乙武洋匡氏。乙武氏といえば、先天性四肢切断という障害を持ちながら、1998年に出版した『五体不満足』(講談社)が大ベストセラーとなり、これまでメディアで脚光を浴び続けてきたが、多くの人が彼に爽やかなイメージを持っていただけに、記事の衝撃は大きかった。しかし、今回の件は単純なスキャンダルではない。その裏側では乙武氏の参院選出馬を巡って政争が繰り広げられていたのだ。

政治家になる前から政争に巻き込まれた
自民党から都知事になりたかった乙武氏

 不倫発覚の記事もさることながら、『週刊新潮』の発売日に、乙武氏が自身の公式サイトに公開した謝罪文にも注目が集まった。

永田町界隈では、ネタをリークしたのは「日本を元気にする会」の松田代表サイドだとウワサが...。まだ政治家になっていないのに、早くも政争に巻き込まれた格好だ

 驚かされたのは、妻との連名という謝罪の仕方だ。乙武氏の妻は「このような事態を招いたことについては、妻である私にも責任の一端があると感じております」とコメントしていたが、一般的に夫の不倫スキャンダルで妻が謝罪するというのはかなり異例だろう。

 ネット上では「政治家の妻みたいだ」という評も聞かれたが、それもそのはず、3月8日に、日本テレビ系『NEWS ZERO』が、自民党がきたる国政選挙で乙武氏の擁立に向け最終調整している事実をスクープしていたのである。

 また3月18日発売の『週刊新潮』でも、夏の参院選でタリーズコーヒージャパン創業者としても知られる松田公太氏が代表を務める日本を元気にする会から、乙武氏が出馬することを誓った文書の存在が明らかにされていた。

 まさに政治家になる前から政争に巻き込まれた観もある乙武氏だが、その舞台裏で何が行われていたのか、永田町関係者はこう語る。

「もともと乙武さんには、政治家になりたいという希望があったようですね。国会議員よりも権限が大きい東京都知事のような首長を狙っていたといいます。それもあって、乙武さんは日本を元気にする会から出馬するという約束を、代表の松田さんと交わしていました」

 ところが、乙武氏と松田氏との間で対立が生まれていったという。

「まず、日本を元気にする会は組織として勢いがなかった。もともと、同会は、2014年11月に解党したみんなの党に所属していた6人の議員で参議院会派として結成されたものですが、今の所属国会議員数は4人で、国会議員5人という政党要件を満たしていません。党としては先の展望が開けず、このまま行けば消滅するのは時間の問題だと乙武さんは見ていた。

 また、応援演説のやり方やスケジュールの組み方など、党の運営方針を巡っても乙武さんと松田さんは対立していたようです。これに目をつけたのが松田さんと親しく、日本を元気にする会の内情を知っていた、自民党議員です。

 今夏、任期満了に伴う参院選の東京選挙区は、前回選挙で171万票を獲得した民主党(現民進党)の蓮舫さんが圧倒的に強い。一方、自民党は、中川雅治さんが3位で71万票。5議席の中で自民党は1人しか議席を獲得できず、今夏の参院選でも2人目の候補者がなかなか見つからず、焦っていたようです。

 それに加えて、今、自民党の東京都連は舛添要一東京都知事とうまくいっていません。舛添さんは都知事選に無所属で出馬していて、自民党は推薦という形で公認候補ではなかったんですね。ただし、20年の東京オリンピックは舛添知事で迎えないといろいろと不都合が生じるでしょう。だから、乙武さんをまず参議院議員にして知名度と経験を積ませておいて、舛添知事が2期務めた後、22年の都知事選で自民党の独自候補として乙武さんを擁立しようと考えたんです」

 つまり東京選挙区で目玉候補として、さらにゆくゆくは都知事に、ぜひとも乙武さんを担ぎ出したかったのだ。そんな自民党と、日本を元気にする会との関係が悪化していた乙武氏の利害が一致し、両者は急接近したということなのだ。