アベノミクス「4年目」の正念場 <br />上がらない賃金の背景に人口動態政府・日銀の意図に反して賃金が思うように上昇しないのはなぜか

 アベノミクスが第2次安倍政権の成立(2012年12月)とともに始まったとすると、昨年12月から4年目に入ったことになる。

 日本の政治において「4年」というのは重要な意味を持つ。なぜならば「4年」は衆議院の任期に当たる。衆議院は解散されることが半ば当然となっているが、それでも同院の任期が4年ということは、一内閣は4年をめどに一定の政策の成果を出すことが制度上、要求されている。その「4年目」にまさに今、アベノミクスは入っており、政策の成果が厳しく問われる。簡単に言えば、「期待の好転」だけではもはや政策効果として説得力を持ちえない。

完全雇用状態でも実現しない賃金上昇
日銀の意図に反したフィリップス曲線

 アベノミクスが4年目を迎える中、日銀が2013年4月に導入したQQE(量的・質的金融緩和)も今週から4年目に入った。当初、2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現するとされた「物価安定の目標」すなわち「総合CPI前年比2%」の達成時期は、今では「2017年度前半ごろ」まで延長されている。

 しかも日銀の想定する「CPI前年比2%」は単にCPIだけが上がればよいというものではない。あくまで「安定的」に物価が上がらなくてはならない。この「安定性」について、2013年9月の共同通信社主催「きさらぎ会」の講演で、黒田総裁は「景気が普通の状態の時に2%になるような経済・物価の関係」という見解を述べた。これは需給ギャップがゼロの状態でCPIが前年比2%のペースで上がる状態と同義である。

 すなわちフィリップス曲線(横軸に需給ギャップ、縦軸にCPI変化率をとったときの両者の関係)の切片が2%で定着することが、「安定的」な物価の2%上昇であるというのが黒田総裁の考え方である。

 この考え方を労働市場に当てはめるとすれば、完全雇用の状態で賃金がCPI前年比2%とバランスを取りながら上がる状態となろう。完全雇用とは、景気の強弱に起因する失業率つまり循環的失業率がゼロの状態を指し、足下でほぼ実現されている。

 問題は、それにもかかわらず日銀が意図するような賃金上昇が実現していないことである。労働市場におけるフィリップス曲線(横軸に循環的失業率、縦軸に賃金増加率をとったときの両者の関係)の切片は、日銀の意図に反して下がっている(図表1)。しかも皮肉なことにアベノミクスが始まった2012年末から、フィリップス曲線の切片が一段と低下している。

◆図表1:低下するフィリップス曲線の切片

アベノミクス「4年目」の正念場 <br />上がらない賃金の背景に人口動態注:1. 1991年1~3月期から2014年7~9月期までを「アベノミクス以前」、その後を「アベノミクス以降」としている。
   2. 循環的失業率=失業率-構造的失業率
        ただし構造的失業率は「摩擦的失業」(失業率と欠員率が等しくなるときの失業率)を使用
出所:総務省『労働力調査』、厚生労働省『一般職業紹介状況』などよりバークレイズ証券作成