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なぜ津波到達までに緊急炉心冷却装置は起動されなかったのか(下)

『福島第一原発 メルトダウンまでの50年』の著者・烏賀陽弘道氏に聞く

烏賀陽弘道
2016年4月7日
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>>(上)より続く

原発がない滋賀県も
福井県と運命共同体

――国は、福島第一原発事故を受けて、さまざまなルールを変更しています。3・11の教訓は、近隣住民の避難対策が大きかったはずですが、国は新指針においても「被害は30キロメートル圏内に収まる」というシナリオを前提にしています。その後の住民の避難対策については、どう考えていますか。

 そうした国の住民避難対策に疑問を抱いた数少ない地方自治体の首長が、前滋賀県知事だった嘉田由紀子氏です。現在は、びわこ成蹊スポーツ大学学長を務めていますが、私は嘉田さんにも話を聞きに行きました。現在も東北の被災地に通う私には、住民の避難対策における有効性は他人事ではないからです。

 滋賀県には原発は1つもありません。ですが、隣の福井県には敦賀湾沿いに計15基の原子炉(建設中の高速増殖炉「もんじゅ」を含む)が集中しており、“原発銀座”と呼ばれています。しかも、福井県と滋賀県の境にある日本原電の敦賀発電所は、滋賀県側から13キロメートルしか離れていません。福島第一原発事故が起こる前までは、滋賀県には原発事故への備えがありませんでした。しかし、福島で起きた事故では、30~50キロ先まで放射性物質が飛散したことを滋賀県に当てはめれば、琵琶湖に降り注ぐことになります。となると、京都府や大阪府の上下水道に影響を及ぼします。そこで、滋賀県は、国に頼ることなく、独自のシミュレーションを基にした避難計画を策定したのです。

――嘉田元知事は「立地地元」ではなく、「被害地元」という新しい概念を発案しました。滋賀県は、43キロ圏内という独自の避難計画をまとめています。

 はい。単に、コンパスで円を描いて30キロという想定はおかしいという判断です。放射性物質は、樹木の年輪のように同心円状には飛ばないからです。

 嘉田元知事は、住民の避難対策を考える上で、最も矛盾していることとして、指示・命令系統が2つあることを指摘しています。例えば、災害などの「地域防災計画」(災害対策基本法の対象)では避難指示を出すのが市町村長であることに対し、「原子力災害」(原子力災害特別措置法の対象)となると総理大臣になることです。しかも、前者が総務省の管轄である一方で、後者は経産省の管轄下にありました。現在は、原子力規制委員会として環境省の管轄に変わっていますが、総務省と環境省が横の調整をしていないために現場は動けない。

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