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山田英夫のビジネスモデル・ラボ

セブン銀行「無敵のATM戦略」はこうして生まれた

山田英夫 [早稲田大学ビジネススクール教授]
【第1回】 2016年4月19日
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今や全国のセブン-イレブンとイトーヨーカ堂に設置されている、セブン銀行のATM。その「見えないビジネスモデル」の強みとは何か(写真は本文とは関係ありません) Photo:DOL

 「コンビニでお金を引き出せたら便利」

 セブン-イレブンには、かなり前からこうした声が寄せられていた。同社は以前から公共料金などの収納代行を行っており、転居の多い若者などにとっては、引き落としの際の登録手続きの手間を省くことができ、夜間や土日でも気軽に支払えるコンビニの方が、銀行よりも便利であった。

 公共料金の支払いだけでなく、現金を引き出せたらもっと便利になるため、セブン-イレブンはまず銀行との提携でこの事業に参入しようと考えた。しかし提携だと、ATMが設置銀行の出張所扱いになり、サービス内容を自分たちで決められないなど自由にならないことが多く、同社は自ら銀行業の免許を採る方針に転換した。

 2000年頃は、金融機関の破綻が続き、当時の大蔵省も新しい銀行の認可に前向きで、ソニー銀行、ジャパンネット銀行などが認可されてきた。また既存の銀行は、バブル期に増やしてきたATM店舗を維持することが難しい時期に入っていた。

既存のネットワークに加盟できず
自分で銀行をつくるしかない!

 セブン&アイ・ホールディングスの前身であるIY(アイワイ)グループは、2001年にアイワイ・バンク銀行を設立した。銀行業の免許を取れば、金融機関各社が加盟している「統合ATMネットワーク」に加盟できると考えていた。しかし、他行客がIY銀行のATMを使うだけで、その逆は少なく、手数料が一方的に流れると考えられ、ネットワークへの加盟は認められなかった。そこでやむを得ず自力でネットワークをつくり、それを直接金融機関に繋げざるを得なかった。

 アイワイ・バンク銀行は、他行のように預金獲得や住宅ローンで競争するのではなく、他行と共存共栄できる「共通インフラ」のATMを提供するビジネスモデルとした。そのためにはパートナーが必須であり、まずは都市銀行や各県の第一地銀と提携を進めた。2001年度には9社、2002年度には48社と、立ち上がりこそ苦戦したが、2003年度には信用金庫やゆうちょ銀行が加わり、提携金融機関は一気に309社へと増えた。

 そして、2003年度には単年度黒字を達成、2005年には累積損失を一掃し、セブン銀行に改称した。

 2007年度には、全国すべてのセブン-イレブン、イトーヨーカ堂にセブン銀行のATMが設置された。すべての店にあることが、消費者の安心感、利便性につながった。

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山田英夫 [早稲田大学ビジネススクール教授]

慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)後、三菱総合研究所にて新事業開発のコンサルティングに従事。1989年早大に移籍。学術博士(早大)。専門は競争戦略、ビジネスモデル。アステラス製薬、NEC、ふくおかフィナンシャルグループ、サントリーホールディングスの社外監査役を歴任。主著に『経営戦略 第3版』(共著、有斐閣、2016)、『競争しない競争戦略』(日本経済新聞出版社、2015)、『異業種に学ぶビジネスモデル』(日経ビジネス人文庫、2014)、『逆転の競争戦略:第4版』(生産性出版、2014)、『ビジネスマンの基礎知識としてのMBA入門』(共著、日経BP社、2012)などがある。


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企業を取り巻くビジネス環境が激変するなか、これまで自社の主流となってきたビジネスモデルを、根本から見直そうと考える経営者は増えている。しかし、単なる新製品・新事業開発に比べて、ビジネスモデルの再構築は、極めて難しいのが現実である。一方で、業界になかったビジネスモデルを構築し、着実に利益を稼ぎ、堅実な成長を遂げている企業も少なくない。なかには、表面的には競合他社と変わらないようなビジネスモデルを持っている企業もある。この連載では、様々な業界でビジネスモデルを巧みに構築している企業にスポットをあて、顧客や競合から見えている部分だけでなく、見えない部分にも目を配り、ビジネスモデルの「真の強み」を考察する。「どこに注意してビジネスモデルを構築したら良いかわからない」と悩む経営者諸氏には、ぜひ参考にしてほしい。

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