7月某日、ワイングラスメーカーのリーデル社(本社:オーストリア)から「2000年に発売した大吟醸グラス10周年を記念してパーティを開催する」という案内を頂戴した。
商品開発時に協力してもらった複数の蔵元を招くとともに、同社グラスの開発プロセスにおいて不可欠な “ワークショップ(テイスティング)”をミニ版ながら再現するという。
吟醸酒好きの僕としては、はやる気持ちを抑えながら会場に向かった。
「飲み物の個性がグラスの形状を決定する」を基本理念に、ワインやスピリッツなどさまざまな酒類を楽しめるグラスを開発、250年以上の歴史を誇る名門・リーデル社に「日本酒の美味しさを正しく伝えられる専用グラスを開発できないだろうか」と依頼を持ちかけたのは、金沢の老舗蔵元・福光屋だった。1998年のことである。
リーデル社は極東の酒造メーカーからの熱いコールを快諾。しかし、ワインはワインでもお米のワインにはなじみがなかったことから、数多くの日本酒がテイスティングされた。その結果、アルコール度数が高めでボディがしっかりしている純米酒には小さな器が、芳香に優れきれいな酒質が特徴の大吟醸酒には大きめの器が適していることが確認できたという。
それからがいよいよ本番。蔵元11社と日本酒専門家のべ200人が参加し、100種類以上あるサンプルのなかから60種類のグラスを選出。25回に及ぶワークショップを繰り返した結果、開発着手から2年を費やして「リーデル大吟醸グラス」は誕生したのである。
グラスの形状によって
酒の味は変わるのか?
リーデル社の基本理念「飲み物の個性がグラスの形状を決定する」は、裏を返せば(返さなくてもよいが)「グラスの形状によって酒の個性は顕現する」とも取れなくない。
そこで、器の形状の違いによって同じ酒の味が変わるのか、変わるとすればどれほど変わるのかを試みることにした。用意したのは、(1)「リーデル大吟醸グラス」のほかに、松徳硝子が大吟醸用に開発した(2)「うすはり大吟醸(玻璃蔵 庄太郎)」、黒龍酒造(福井県永平寺町)が製作した(3)「黒龍 酒グラス」、そして、日本を代表するインダストリアルデザイナー・柳宗理氏が日本酒造組合中央会の依頼でデザインした「清酒グラス(大(4)と小(5))」の5種類。