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岸博幸のクリエイティブ国富論

日本は本当に大丈夫なのか?
安易な追加経済対策発言と勢いづく構造改革批判
政治家・官僚・メディアに広がる無責任と無気力

岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
【第100回】 2010年8月6日
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 ここのところ、経済政策を巡る不思議な勘違いがいろいろなところで起きているように感じます。政権が無能で政治が停滞すると、こうなるのかとも思いますが、その要因は3つに分類できると思いますので、今週はそうした勘違いの3類型について考えてみます。

政治家の定見の欠如

 第1の類型は、政治家の経済に対する定見が欠如しているがゆえの勘違いです。菅総理をはじめとする今の官邸が、その典型ではないでしょうか。

 例えば、8月3日(火)の国会審議で、菅総理は景気の現状について「何らかの対応が必要か検討しなければならない時期に来ている」と述べ、追加経済対策を検討する考えを示しました。

 これは実は非常に奇妙なことです。その前の週に来年度予算の概算要求基準を閣議決定していますが、そこでは、歳出の大枠(一般歳出+地方交付税)は今年度予算と同額の71兆円と決めているからです。歳出の大枠を同額にするということは、来年度予算の歳出規模は今年度予算とほぼ同じになることを意味します。来年度の政府支出は景気に対して中立的となり、何の景気刺激効果も持たないのです。

 かつ、閣議決定に際して、景気の先行きについて議論したり、誰かが問題提起をしたという形跡はありません。つまり、来年度の景気について総理以下の閣僚は無関心だったのです。その翌週になって突然景気への危機感を表明するというのは、経済運営についてあまりに鈍感であると言わざるを得ません。

 今年の秋以降に経済成長が鈍化するのは明らかですが、もし真面目に景気の先行きを懸念しているならば、補正予算を言い出す前に、来年度予算の規模をどうすべきかについて、財政再建だけではなく景気の維持の観点からもしっかりと考えるべきだったのではないでしょうか。年度予算は、ある意味で最大の経済対策だからです。

 付け焼き刃の補正予算は、効果が薄い一方で、財務省の査定や国会審議が厳しくないなどの点で官僚にとってもっとも嬉しい、タチの悪い予算です。それにもかかわらず今回のような対応をする菅総理と官邸の政治家は、経済に関する定見がないことを自ら露呈したと言わざるを得ません。

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岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス・マーケティング株式会社取締役、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問も務める。

 


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