子どもがいれば200万?
慰謝料の「相場」とは

「では、そうと決めたら、いくら請求するかを考えなくてはいけませんね」

「先生、不貞の慰謝料の相場って、どんなもんですか?」

「そうですね、大雑把に言うと、結婚していた期間、不倫していた期間、頻度、同棲までしていたのかなどの不貞の内容、相手に子どもがいるかどうかなどさまざまな要素が考慮されるので、一概には言えないんですが」

「うちの場合は、子どもができてますよ、と」

「よく、子どもができたら200万円はくだらないと言われますね」

「200万かー。なんだかこっちは家庭を壊されてるのに200万円って安い気がします」

「ただ、これは裁判までいった場合の話なので。示談する場合はもっと高い金額が払われることはよくあります」

「なるほど」

「とはいえ、慰謝料を『私の心の隙間を癒すための金額』と考えると、それって値段をつけにくくないですか?」

「たしかに。いくらだったら許せるのかと言われても、正直、答えにくいです」

「私はよく、慰謝料は新しい生活を始めるための『支度金』だと思うのがいいとお伝えしています」

 

夫が不貞。慰謝料請求のリアル      妻はもう「離婚後」のことを考えている

離婚をするということは、新しい生活を始めるということです。引っ越し費用をはじめとして、新しい生活のための資金がかかります。財産分与で家具や家電を分けあったら、相手に渡してしまった家具や家電は、必要ならば買い足さなくてはいけません。

また、専業主婦の場合は新しい仕事を見つけるための時間や、仕事が軌道にのるまでの生活費もかかります。これらを「支度金」と考えると、前向きに考えやすくなりますし、数字に根拠ができるので、ご主人へのプレゼンもしやすくなります。ご主人も、奥さんが次の人生を踏み出すためのお金だと思うと、財布を開きやすくなるようです。

「まあ、うちの場合、マンションには私が住み続けることになるでしょうし、ダンナも家具を持っていきたいとは言わないような気がします。私ひとりでも払えない家賃ってほどではないですから、引越し費用はかからないなあ。ただ……」

「では、ひとりになったらやってみたいと思っていたことはないですか?」

「そう! それ。今、先生の支度金の話を聞いて思い出したことがあるんです」

「聞いてもいいですか?」

「はい。実は今の今まで忘れていたんですが、3年くらい前、ボストンに本社がある広告代理店からヘッドハンティングされたことがあるんです」

「それはすごいですね」

「その代理店は、私たちみたいな仕事をやっている人間にとっては憧れの会社で、正直とても嬉しかったんです。でもそのときは、夫がいるのに海外転勤の可能性が高い職場は選べないしと思って、すぐにお断りしたんですよね」

「そんなことがあったんですね」

「これからの生活のための支度金と言われて思い出したんです。夫がいなくなれば、私、世界のどこで働いてもいいわけですもんね。外資系チャレンジしてみようかなあ」

離婚を機に、資格をとるために学校に通ったり、海外に留学したり、転職したりする人は少なからずいらっしゃいます。新しい環境に身を置くことで、離婚によって感じる喪失感も、比較的早く癒されるようです。

「しかもほら、絶対職場でうわさになると思うんですよね。私もダンナもさゆりも同じプロジェクトで働いたから、共通の友人も多いし。これ、相当気まずいですよね」

不倫をしたのはご主人とさゆりさんですから、そのことで久美さんが会社に居づらくなるのは解せない話ですが、でも、現実的には久美さんの言うとおりでしょう。

「でも、せっかくここまで築いてきたキャリアなんじゃないですか?」

「うーん、そうですね。でも正直、管理職を打診される歳になってくると、このままこの会社にいていいんだろうか? という気もしていたんです」

「そうでしたか。新しい道を考えるきっかけになるかもしれませんね」