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あれか、これか ― 「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門
【第10回】 2016年5月4日
著者・コラム紹介バックナンバー
野口真人 [プルータス・コンサルティング代表取締役社長/企業価値評価のスペシャリスト]

節約した100万円を貯金しても、
あなたの価値は1円も増えない

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ファイナンスとは「価値」をめぐる最も実践的な学問である。では、価値を高めたいとき、何が必要だろうか? すぐに思いつくのは「企業:コストを抑えて利益を高める」「個人:節約をして貯金を増やす」などだが、これはファイナンス的には正しいやり方ではない。

年間500件以上の企業価値評価を手がけるファイナンスのプロ・野口真人氏の新著『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』のなかから紹介していこう。

いくら利益が増えても、
会社の価値は増えない

ファイナンス的な価値とは、将来に生み出されるキャッシュフローの総額である。ここでこう考える人がいるかもしれない。

 「キャッシュフロー、つまりキャッシュインとキャッシュアウトの差額を増やせばいいということは、利益(=売上-コスト)を増やせばいいということか。それなら簡単だ!」

しかし利益を増やせば、価値が増えるかというと、事はそう単純ではないのだ。ちょっと例題で考えてみることにしよう。

世界的に有名な婦人用高級ブランドKのバッグは、店頭では平均単価100万円で販売されている。この製造コストや輸送コストなど、すべてをひっくるめて10万円としよう。つまり、1つのバッグを売れば、平均90万円の利益が出る計算である。

さすがに高価なものなので、1日に何個も売れることがない。ある日、お客が来てバッグを買おうかどうか迷っている。そこでそのお客が「もし80万円までディスカウントしてくれれば買おうかしら」と言ったとしよう。

【問題】
あなたがその店の店長なら、20万円の値引きをするか、しないか?
「価値を高める」という視点で考えてみよう。

もしも値引きをしなければ、お客は買わずに帰るだろうから、店には1円の利益も入らない。たとえ80万円まで価格を下げても、70万円もの利益が出るわけだから、ここは店長として思い切って値下げをしたほうがいいかもしれない。70万円のキャッシュフローをとったほうが、店の価値も高まるのではないだろうか?

たしかに、ディスカウントを断ることで、その日の稼ぎは0円になる。さらに長期的に見た場合、1年で売れるカバンの数が100個だとしよう。年間キャッシュフローは9000万円(=(100万円-10万円)×100個)である。

一方、80万円に値下げしたことで年に200個売れるようになるとしたら、キャシュフローの見積もりは1億4000万円(=(80万円-10万円)×200個)となる。年間利益で5000万円もの差が出る。やはりディスカウントするべきなのだろうか?

しかしこの判断はファイナンス理論では単なる愚行としか考えられない。

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野口真人(のぐち・まひと) [プルータス・コンサルティング代表取締役社長/企業価値評価のスペシャリスト]

1984年、京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1989年、JPモルガン・チェース銀行を経て、ゴールドマン・サックス証券の外国為替部部長に就任。「ユーロマネー」誌の顧客投票において3年連続「最優秀デリバティブセールス」に選ばれる。

2004年、企業価値評価の専門機関であるプルータス・コンサルティングを設立。年間500件以上の評価を手がける日本最大の企業価値評価機関に育てる。2014年・2015年上期M&Aアドバイザリーランキングでは、独立系機関として最高位を獲得するなど、業界からの評価も高い。これまでの評価実績件数は2500件以上にものぼる。カネボウ事件の鑑定人、ソフトバンクとイー・アクセスの統合、カルチュア・コンビニエンス・クラブのMBO、トヨタ自動車の優先株式の公正価値評価など、市場の注目を集めた案件も多数。

また、グロービス経営大学院で10年以上にわたり「ファイナンス基礎」講座の教鞭をとるほか、ソフトバンクユニバーシティでも講義を担当。目からウロコの事例を交えたわかりやすい語り口に定評がある。

著書に『私はいくら?』(サンマーク出版)、『お金はサルを進化させたか』『パンダをいくらで買いますか?』(日経BP社)、『ストック・オプション会計と評価の実務』(共著、税務研究会出版局)、『企業価値評価の実務Q&A』(共著、中央経済社)など。


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