(撮影:Toshio Fukumoto)
「修理業ではなく、接客業でありサービス業」
パソコンの修理やトラブルを解決してくれる日本PCサービス社長の家喜信行は、この点に特にこだわり、社員に意識づけを徹底させている。
まず、客先に駆けつける社員はネクタイとスーツを着用。ひげ、ピアス、長髪茶髪はダメ。店では、来店した客が帰るのを店の外まで出て、深々と頭を下げて見送る姿が見られる。
「直接、お客様からご料金をいただく有償サービスなのだから当然です」
日本PCサービスは、電話で訪問修理を希望すれば、その日のうちに社員がやって来て、パソコンのトラブルを解決してくれる。もしメーカーに依頼すれば、たいていの場合は訪問までに4日はかかる。即日訪問というスピード感が最大の特長だ。訪問するのは、冒頭の家喜のこだわりを実践する社員たち。同社の強みは素早い対応だけでなく、細かな身だしなみにも気を配る社員の存在だともいえる。
家喜がここまでこだわりを持ったきっかけは、創業間もない頃にぶち当たったIT業界の常識だった。
2003年7月、前職の中小企業向けパッケージソフトの販売会社を退職した家喜は、当時大阪ではあまり見られなかった、個人向けのパソコン訪問修理業を営もうと決意。前職で営業担当として積み重ねた経験を通して、家喜はパソコンの簡単な修理やインターネットの接続トラブルを解決する十分な知識を習得していた。
コンビニの閉店跡地に店を構え、前職で3年連続トップ営業マンとして鳴らした営業力を武器に、個人宅に営業をかけた。チラシも200万枚をばらまいた。しかし、1ヵ月たっても受注はわずか4件。「頭の中には右肩上がりの、売り上げも利益も上がる計画が描かれていたが、一気に崩れた」。
パソコンに関連するサービスに
おカネを払う文化がなかった
会社はすぐに行き詰まった。資本金1000万円はすぐに底を突き、毎日のように金策に走ることになった。
だがこのときの家喜にとっての最大の壁は、融資を渋る金融機関ではなく、IT業界やパソコン業界を支配していた常識だった。それは「無料でなんでも提供する」というもの。その最たる例がソフトバンクのYahoo!BBだった。この頃、ソフトバンクは日本全国の至るところでインターネット接続用のモデムを無料で大量にばらまいていたのだ。その結果、多くの人には修理はもとより、パソコン関連のサービスにカネを払うという意識がなくなっていた。