「好きなようにする」の敵は余計な干渉と暇

楠木 僕は90%はその人の好きなようにできるのが、いい社会だと思っています。ただ、それだけだと、世の中は成り立たないので、最低限の部分は、法でちゃんと取り締まらなければいけない。

 そのうえで、各々が好きなようにすればよくて、自分と好みが違う人に、関心を持ったり、干渉しないのが普通だと僕は思うのですが。先ほどのように異様に人のことが気になる人たちもいますよね。単純に暇なんですかね?

組織で椅子取りゲームをする男性、それを見ている女性和田史子
ダイヤモンド社勤務。書籍編集局第三編集部の編集長として、8名のチームを率いる。

和田 そうですね、暇かどうかは大きいと思います。この本にあった「男の嫉妬」に困っていますという相談もそうですが、先生のおっしゃっているような嫉妬とか、妬みとかって、本当に本質的に暇じゃないと、なかなかパワーがいることなので。

楠木 各々が好き嫌いを表明して、自分の力を発揮して生きていくのがいい組織であり、社会だと思っているんですけど。その一つの敵は、余計な干渉とそのベースにある暇ですね。

「小人閑居して不善をなす」っていうロジックあるじゃないですか。つまり、暇だとつまんないことを言ったりね、干渉してきたり、邪魔する。こういうのは不善ですね。ただし一方で、「衣食足りて礼節を知る」っていうロジックもある。組織にしても、社会にしても、クオリティが高いということは、「小人閑居して不善をなす」ではなく、「衣食足りて礼節を知る」方向に動くものだと思います。

自分が捨てているものは何か

組織で椅子取りゲームをする男性、それを見ている女性橋本樹一郎
日本ロレアル勤務。日本法人の経営戦略立案と関連する情報収集を行う。

橋本 先生は時間単価が高いお仕事で、自ら仕事を選べるというスタンスで、基本的には述べられていると思うんですね。

楠木 時間単価はケース・バイ・ケースですけど。

橋本 なかなか、そういう好きなようにできない人も、「まあ、わかってはいるけど……」っていう感じの人もいるかなと思いました。僕もその1人かもしれません。

楠木 それこそ「好きなようにしてください」です。

 僕は時間に関しては、わりと自由がきく仕事をしています。それが僕の重要な基準だったからですね。基本的に自分が好きなようにしたいなっていうのがあるんですけど。とりわけ時間的な自由度に関しては、若い時から半ば無意識のうちに、すごく重要だなと思ったんですよ。だから、いまみたいな仕事を選んでいるわけなんです。

 もちろん、それを手にするために失っているものも多々あります。たとえば、僕の仕事をやるのは絶対に嫌だなって言いそうな人は、「男っぽい人」、男性濃度の高い人だと思うんです。僕の考える男性の性(さが)というのは、「動員できる資源の量」が大きいことを、本能的に好むということ。たとえば、「俺が一声掛ければ、100人動くから」とか。

橋本 いますよね。

組織で椅子取りゲームをする男性、それを見ている女性

楠木 これはかなり、男の強い本能だと思うんですよね。「うちは時価総額1000億だから。君のところは、100億なの?」とか、男同士の会話では、良くありますよね。

 一見草食系の経営者でも「時価総額1000億以外、目に入らないよね」とか言ったりする。動員できる資源量に拘るのは、男の本能ですね。

 そういう人からすると、僕がいまの時間的な自由度で得ているものは、時間的な自由で得たかわりに失っている最たるものは、動員できる資源量なんですよ。結局ね、いいところを全部、取れたらいいのですが、それはできない。何を捨てるかっていうことに、一番好き嫌いの本質が出ると思うんですよね。