年を重ねると言うことは、自分の存在が軽くなること

20代は自分の存在が地球より重い

宇尾野 楠木さんの中で、いま、すべてがつながっているというお話されたと思うんですけど。いつから、そうやって個々の事象のすべてがつながるようになったんですか? 楠木さんの積み重ねがすごく気になります。

楠木 僕自身、皆さんと同じ年のころは、業種は同じだったんですけれども、だいぶ違った方向で仕事をしていて。自分の好き嫌いも良くわからなかったし、とにかく空回りや、フルスイングで空振りが多かったんです。いまの感覚とは正反対で、とにかくうまくいってないな、つながってないなっていう経験があったんです。

 その裏返しで、こういうことをやってるうちはダメなんだなとわかり、つながり出した感じですかね。30代の半ばぐらいから、だいぶ生きるのが楽になったような気がしますけどね。そこまでは本当に、よくわからなかった。

宇尾野 結構そこは不健康の時期が続いていたと?

楠木 根本的には性格も変わってないし、いまと同じような感じでやっていたんでしょうけど。やっぱり自分のツボみたいなものがわかるまでに、誰でも時間かかりますよね。本当にある時に、乗ってやっているっていう感じがする時が、必ず来ると思うので。その時に、なんで乗っているのかな?これのどこが自分にとって、そんなにいいんだろう?という疑問への答えを考えて、自分で言語的に理解できるかどうかが、大切なことだと思います。

 本性っていうのは、そんなに僕は変わらない。仕事の場で、人に頼りにされた時に、幸せになったりする。頼りにされると、それに応えようとするといった感覚は、歳を重ねてもそんなに変わらないと思うんですよね。

 僕はもう25歳には絶対戻りたくないです。主観的にはあの時は大変だったなっていう。おまえが言うなっていう話なんですけど。僕としては大変でした。だんだん生きるのが楽になっていきますね。65ぐらいになったら、それこそ呼吸をするように自然に生きていけるような期待があります。で、そのうち呼吸が止まって死んじゃう(笑)。

20代は自分の存在が地球より重い

 本当に世の中よくできてるなと思うのは、一面的に悪いこと、全面的にいいことってあまりないんですよね。年をとるっていうのは、やっぱりよくない面が当然あるわけです。皆さんもずっと若くありたいと思うかもしれない。失うものはいろいろとあって、頭髪とかですね。でも、その分、必ずいいことがあるのでね。それはもう、楽になる。しょせん、こんなもんじゃないのって感覚を、自然に受け入れられる。

 でも、若いうちはなかなかそんな感情は受け入れられない。自分はこんなもんじゃないんだと思うし、僕もそうですけど、人間誰しも自分が一番かわいいんですよね。誰もが自分は特別な人間だと思っているんです。

 サマセット・モームという、人間洞察にすごい優れているイギリスの小説家がいて。彼が、自分は1人として、首尾一貫した人間に会ったことがないと言っているんですね。全員がものすごく一貫してない、いろんな矛盾を抱えて、それでも、のうのうと生きていると。これはなぜか。答えは、「みんなが自分だけは特別な人間だと思っているからだ」と言っていましたけど、そういうものですね。

菅野 結構、年をとっても、しんどそうな人っていますよね。

楠木 流れ方が悪いんですよ。

菅野 何かに固執してるっていうことなんですか?

楠木 自分に固執してるんでしょうね。

菅野 自分に固執…?

楠木 ええ。仕事で、ですよ。仕事に限って言えば、仕事はもう、とにかく自分以外の誰かのためになって、初めて仕事なんです。仕事ができる人は、仕事の前に自分が消えてる感じがあるんですよね。仕事の成果が主語になっていて、私がやりましたって言って固執しない。自分にとって何が損得か、自分が主になっていないんですよね。なんかお坊さんみたいなことを言ってますけど(笑)

宇尾野 解脱されてます。

楠木 解脱って言ったって、これ大した解脱じゃなくて、だいたいみんな、普通にやっていれば、僕ぐらいの年になると、みんなそうなっているものです。とにかく、うまくいかないんで。うまくいかなければいかないほど、楽になっていくっていうのが、世の中のおもしろいところですね。

 いつまでたっても自分に固執しているやつ、あれ嫌ですね。こういうやつにはなりたくないなっていうのを、周りのおじちゃま、おばちゃまの中から、ぜひね、特定してください。

 ポジティブなロールモデルっていうのは、僕はあまり、ピンとこないんですけど。こういうやつになったらダメだぞっていう、ネガティブなロールモデルは役に立つ気がします(笑)

20代は自分の存在が地球より重い

※次回は読者座談会マネジャー編です。公開は5月24日(火)の予定です。