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ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹

性善説なのに「タダ乗り社員」を生まない驚異の組織運営術

渡部 幹 [モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]
【第50回】 2016年5月25日
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希代の悪役プロレスラー
「タイガー・ジェット・シン」の現在

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

罰則システムをつくらない限り、タダ乗りメンバーの発生は避けられないというのが、現代社会生物学の「常識」。しかし、この常識を覆す組織が、世の中には存在する

 プロレス好きの人々か、そうでなくとも筆者の年齢層より上の世代、40代後半以上の人々には、「タイガー・ジェット・シン」という名前に聞き覚えのある人が多いだろう。

 1970年代にアントニオ猪木のライバルとして、徹底したヒール役を演じたインド系レスラーで、つい最近までインディーズプロレスでも活躍しており、コアなプロレスファンならば、若い人もご存じだと思う。

 長身の彼は、ターバンを頭に巻き、サーベルを持ってリングに上がり、善玉役の相手レスラーに対して卑劣の限りを尽くした反則攻撃を仕掛け、さらにはレフリーや観客にもしばしば襲い掛かるなど、外人悪役レスラーとしては、アブドーラ・ザ・ブッチャーとならんで知名度の高いレスラーだ。その凶悪さから「インドの狂虎」などというニックネームで呼ばれていた。

 だが、そんな彼は、現在住んでいるカナダのトロントでは、インド人コミュニティの中で「超」がつく有名人である。もちろんカナダでもレスラーとして知名度が高いが、それ以上に実業家、慈善事業家として、多くの名声と人望を得ているのだ。

 日本では、観客を襲ったり、プライベートでアントニオ猪木夫妻に暴行をはたらいたという報道もあったが、彼が暴力的になるのは基本的にはリングの中だけで、それ以外の暴行報道は「やらせ」であったことが関係者の証言でわかっている。

 つまり彼は非常に生真面目に、律儀に日本で「狂人役・悪役」を演じていたプロだった。家に帰れば子煩悩な父親で、南米で行われたプロレス興行で自らがプロモーターになった時、呼び寄せた日本人レスラーが航空機事故で亡くなったのだが、このときには正装でテレビ会見し、真摯にお悔やみの念を述べている。

 これまでの彼の姿勢が、現在まで彼を著名にしている理由のひとつと思われる。

 このタイガー・ジェット・シンのリングでのいでたちは頭にターバンを巻き、サーベルを持っているものだが、それがインドを代表するヒンズー教徒ではなく、シーク教徒の宗教的装束であることはあまり知られていない。

 シーク教は、インド北部パンジャブ地方から興った宗教でインド人口のわずか2%にすぎず、ヒンズー教とは異なる。彼らはヒンズー教のように偶像崇拝をせず、多神を認めず、カーストも否定する。経典を崇拝し、一神教だが、神の名は定まっていない。

 このため、過去にはヒンズー教との確執やムガル帝国との戦争など、多宗教が混在するインドでいくつかの抗争を経てきたが、基本的には他宗教を否定することはせず、イスラム教のように改宗を促すような勧誘もしない。

 実は、マレーシアに来てから、筆者を含めて家族全員が、このシーク教徒の方々にずいぶんとお世話になっている。タクシードライバーの手配、家の修繕、健康問題への対処から、美味しいレストランまで、彼らのネットワークは広く、筆者が困りごとを相談すると、すぐにいろいろな人を紹介してくれる。

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渡部 幹(わたべ・もとき)
[モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]

UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。実験ゲームや進化シミュレーションを用いて制度・文化の生成と変容を社会心理学・大脳生理学分野の視点から研究しており、それらの研究を活かして企業組織にも様々な問題提起を行なう。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。


ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹

この連載の趣旨は、ビジネスマンのあなたが陥っている「ブラック」な状況から抜け出すための「心」を獲得するために、必要な知識と考え方を紹介することにある。社員を疲弊させる企業が台頭する日本社会では、「勝てない組織」が増えていく。実はその背景には、マクロ面から見た場合の制度的な理由がある一方、日本人の持つ国民性や心理もまた、重要な要因として存在する。そうした深いリサーチが、これまで企業社会の中でなされてきただろうか。本連載では、毎回世間で流行っているモノ、コト、現象、ニュースなどを題材として取り上げ、筆者が研究する「ニューロビジネス」的な思考をベースに、主に心理学や脳科学の視点から、その課題を論じていく。あなたは組織の「黒い心理学」を、解き明かすことができるか。

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