1964年の東京五輪を覚えていますか? 焼け跡から蘇った東京を世界に示し、自ら確認する大会だった。日本人の五輪像はあの「復興途上国のスポーツ祭典」ではないか。50余年が経ち、オリンピックは変貌した。巨大な利権となり、招致や放映権でカネが動く。権限を持つ競技団体に腐敗が蔓延し、金儲けを企むビジネスがハエのようにたかる。開催経費は膨張し、宴の後に景気はしぼむ。
そして「裏金疑惑」が浮上した。事件はフランス検察の手の内にある。国際オリンピック委員会(IOC)の倫理規定に違反すれば東京開催は正当性を失うだろう。いったいなぜ、こんなことになったのか。理由は明らかだ。「何のために東京で五輪を開催するのか」。理念が曖昧だった。誰のための五輪なのか。「やりたい人」に任せてしまった咎めを、いま私たちは受けている。
JOC会長の苦しい国会答弁
こんな説明で世間に通用するか
竹田恒和JOC会長の国会答弁を聞きながら、「こんな説明が世間に通用すると思っているのか」と思った。わずか2ヵ月余のコンサルタント契約に2億3000万円が支払われた。
説明はこうだ。
一回目は2013年7月末に9500万円。先方のコンサルタントから売り込みがあり、電通に相談し「実績がある会社」と確認したので、契約しカネを払った。2回目は「東京開催」が決まった後の10月。勝因分析を依頼し、成功報酬を加味して1億3500万円。いずれもシンガポールのブラック・タイジングス(BT)社の口座に振り込んだ。タン・トン・ハン氏が経営する実体のある会社と認識している。当時、国際陸連前会長だったラミーヌ・ディアク氏や息子のパパ・マッサタ・ディアク氏と深い関係にあるとは知る由もなかった(2日後、「関係があることは知っていた。言われるような悪い関係は知らなかった」と訂正)。支払いはコンサル業務に対する正当な対価だ。有形無形の各種報告が成果。票獲得に欠かせなかった。ただ、どう使われたかは確認していない。
証言の要旨はこんなものだ。では、各種報告とはどんな内容で、それがどのように票獲得に繋がったのか。報告を受けた招致委員会の誰が票固めに動いたのか。それともタン氏が説得したのか。「報告と票」の間がつながらない。苦しい言い訳をするから分かりにくくなる。
「カネを渡して票の取りまとめを頼んだ。どう使ったか、私は知りません」
と言えばすっきりしている。古今東西の選挙で定番となっている違反が「カネを渡し票の取りまとめを依頼」である。要するに買収だ。