「変化力」をキーワードに、原理原則を徹底することで公正で公平な経営や人づくりを志向する安渕氏の経営。その背景にあるものを『週刊ダイヤモンド』論説委員の原英次郎が聞いた。

リーダーは「聞く力」と「受け入れる力」を磨けPhoto by Yoshihisa Wada

本質的な思考はシンプルな共通言語に至る

――連載の中に「あなたは誰ですか」「自分は何者か」というストレートな問いがなされるとありました。安渕さんは……。

安渕 「人の力を引き出す人」と定義しています。

――そうなりたいと思ったときに一番大事なものは何ですか。

安渕 聞く力と受け入れる力ですね。自分中心に物事を考えるのではなく、いろいろな人について興味を持ち、聞いたり受け入れたりする。別な言い方をすればオープンであったり、フラットであったりする意識だと思います。

 組織では、偉くなるにつれ「俺が俺が」になって窓を閉ざしてしまう人をよく見かけます。しかし、会社における役職は役割にすぎず、最終目標は、お客様に選んでいただき、すぐれた業績を残し、社会の役に立つことです。社長にしても取締役にしても、それは最終目標を達成するための一つの役割に過ぎません。

 そう考えると、自分にはないアイデアを持っている人はたくさんおり、その人たちの話を聞き、受け入れてよい結果を出すのが、まさに経営層の役割なのです。ですから当社では互いを役職では呼びません。新入社員でも「安渕さん」であり、それでいいのです。

――まったく同感です。しかし日本企業では影響力はポジションに付くと考えられています。

安渕 そうですね。ポジションパワーと本来の個人が持っている影響力が混同されています。しかしポジションがなくても影響力の大きな人はいます。影響力があり、リーダーシップがあり、行動基準に沿っている人はどんどん引き上げる。これを徹底できるかどうかが問題なのです。

――仕事の仕組みにしても人材育成にしても標準化と言いますか、シンプルな原理を徹底的に完遂していますが、なぜこうした行動が可能なのですか。

安渕 議論は徹底して行います。異論反論百出です。しかし一度決めたら徹底的に実行するのも会社のルールなのです。決まった後では「賛成だった」「反対だった」は一切議論にならず、決まったことをどれぐらい実行できたかを評価する文化があるのです。

 その根底には「計れないものは改善できない」というカルチャーがあります。ですから常に見える化して数字を出して改善する。進捗が遅れているのであればどれくらい遅れているかを計り、すぐに手を打つ。そもそも見通しが間違っていたのならばピボットして次の手を打つ。

 GEでは、組織が肥大化したときには世界中の事業の階層数(イメルトCEOを1、イメルトの直属の部下を2と数えて、何階層あるか)と管理スパン(1人のマネジャーが何人の部下を持っているか)を調べ上げてシンプルな形につくりかえ、かつ業務プロセスを標準化する作業を行いました。そのための推進役やチェック係を任命して報告させて見える化する。

――非常にシンプルな共通言語をたくさんつくっていますね。これも標準化を徹底するためのノウハウなのですか。

安渕 コンセプトをぎゅっと凝縮して共通言語にして仕事を全世界共通にするのはGEから学んだ強力な手法の一つです。

 例えば「ワークアウト」。仕事で問題が起こった時に、その原因と解決方法を現場が議論し、その提言をリーダーが即決していく仕組みです。これは世界のどこに行ってもワークアウトはワークアウトなのですから、どこででも仕事ができるのです。コンセプトを誰もが理解しているのでコミュニケーションギャップも起きない。

 GEがグローバル企業になる過程で試行し、学んで来た数々の成果が共通語として集約され、機会均等で公正な職場環境をつくることにもつながっています。これがあるからこそダイバーシティーも、世界のどこの国のどの部門でも働ける仕組みも成り立っているのです。