経営×総務

企業広報が読まれもしない資料作りに腐心する愚かさ

1ヵ月かけて作っても誰も読まない!?
記者クラブのリリース配布に意味はあるのか

 記者クラブに加盟しているメディアの記者がデスクを持ち、企業が配布するニュースリリースの受付窓口となっている記者室。そこでは、ニュースリリースが黄ばむほどに、うず高く積まれ放置されている実態が常態化している。

 ニュースリリースの配布方法は、受付近くのメディアごとの棚に投函する仕組みの記者クラブもあれば、記者のデスクに直接配布をする方法をとっているところもある。

企業広報が入念に作成するニュースリリース。しかし実際には、記者たちが読んでくれているとは言い難い。にもかかわらず、広報担当者たちがリリース作成と配布に固執するのはなぜか(写真と本文は関係ありません)

 ニュースリリースを手渡しすると、中にはその場で目を通し、きっちり取捨選択して整理している記者もいるが、「そこに置いてください」という意味で、隅の書類箱を示される場合もある。その結果、ニュースリリースが山となっていくのである。中には折り目もつかず、触れた形跡すら感じさせないものもある。

 企業の広報担当者は、A4版数枚のニュースリリース1本を完成させるために、関係部署と調整を繰り返し、何度も表現を推敲し、発行に至る稟議のプロセスを経る。中には1ヵ月近くかかるものもあるほどだ。

 あるいは、少なくない費用をかけて、ニュースリリース発行業務の多くの部分をPR会社へ委託しているケースもある。その苦労や費用が、企業のニュースを記事化することに役立っているかと言えば、うず高く積まれたニュースリリースの山を見る限り、疑問を持たざるを得ない。

 記者クラブによっては、広報担当者がニュースリリースを投函すると、記者室内の館内放送をするルールになっているところもある。加盟メディアが多い、ある記者クラブでは、1時間に何本もの館内放送が入る。放送が順番待ちになるケースもある。「(ピンポーンという合図音)○○会社です。ただいま○○についてのニュースリリースを(受付のメディア毎の棚に)投函しました(ピンポーン)」、「(ピンポーン)XX会社です。XXの記者発表記事のリリースを投函しましたので、ご覧ください(ピンポーン)」……。企業の広報担当者が入れ替わり、マイクの前に立つ。

 放送を聞いて、投函されたニュースリリースを受付近くの棚へ取りに行く記者は、いない。それどころか、観察結果をふまえた私の印象であるが、放送を聞いて表情を動かす記者もいない。黙々と自席で記事を書いていたり、資料を読み込んでいたりする動作を変えない。それはまるで、街中の喧騒が耳に入らないほどに集中している姿である。

 もちろん、ニュースリリースが届くのを待って、その内容をかなりの確度で記事にする専門紙・誌や、そうしたポリシーのメディアもある。しかし少なくとも、主要記者クラブに加盟するメディアの記者は、ニュースリリースにかまけている暇はないということなのだろう。

 このように、記者が関心を持っていない、読んでいないと思われるにもかかわらず、投函の放送は続く。記者クラブの事務局の方からは、「もれなくすべての棚に投函しましたか?」「残りの○部は、こちらの事務局の種類入れに入れてください」という親切なチェックが入る。そもそも、記者クラブの入り口に到着すると、私が目的を伝える前に、警備員の方から、(ニュースリリースの)「投げ込み」ですかという声がかかるほどに、日常茶飯事に行われているのである。

経営×総務 特集TOPに戻る



 

 

 

 

 

 

山口 博

やまぐち・ひろし/慶應義塾大学法学部政治学科卒(サンパウロ大学法学部留学)、長野県上田市出身。国内大手保険会社課長、外資系金融保険会社トレーニング・シニア・マネジャー、外資系IT人材開発部長、外資系企業数社の人事部長、人事本部長歴任後、現在、コンサルティング会社のディレクター。横浜国立大学大学院非常勤講師(2013年)、日本ナレッジ・マネジメント学会会員。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)がある。

 


トンデモ人事部が会社を壊す

サラリーマンの会社人生のカギを握る人事部。しかし近年、人事部軽視の風潮が広まった結果、トンデモ人事部が続々と誕生している。あっと驚く事例をひもときながら、トンデモ人事部の特徴や、経営陣がすべき対処法などを探っていく。

「トンデモ人事部が会社を壊す」

⇒バックナンバー一覧