安倍晋三首相は、2017年4月に予定されていた8%から10%への消費増税を、2019年10月まで2年半延期することを決定した。この連載が指摘してきた通り、安倍首相はノーベル経済学賞受賞者やG7を、消費増税延期の「国際的なお墨付き」を得るのに使った(第131回・p5)。しかし、予想が当たったなどというつもりは全くない。首相の動きが、あまりに露骨で、わかりやすすぎて、正直あきれ果てている。
そして、100%の政治家が
増税延期支持となった
岡田克也民進党代表の「増税延期先出し戦術」に続いて、安倍首相が「増税延期」を決定したことで、参院選で「財政再建を真剣に考える国民」にとっての選択肢が完全になくなった(第132回)。自民党には、麻生太郎財務相や谷垣禎一幹事長など、良識的な政治家がいると思っていたが、首相と直接会談した後で折れた。これで、自民党から共産党まで、すべての政治家が「増税延期」で一致したことになる。
かつて、野田佳彦政権時に与野党を超えて約80%の政治家が消費増税に賛成票を投じた時、「大政翼賛会並み」と評した(第40回)。だが、そのわずか4年後に、100%の政治家が増税延期で一致するという状況が生じたことは、いったいどう表現すべきだろうか。
しかも違和感があるのは、国会内の状況とは異なり、国論が消費増税延期で一致しているわけではないことだ。各種世論調査では、増税延期への賛成は60%台だ。企業経営者は、増税延期に概ね歓迎であるが、財政再建や社会保障への悪影響を懸念する声は小さくない。そして、エコノミストの賛否は完全に割れている。
「増税延期賛成論」VS
「増税延期反対論」
増税延期賛成論では、主に景気悪化の理由を、2014年4月の5%から8%への消費増税と中国などの海外要因であるとし、アベノミクスは成功していると主張する。それは、主に金融緩和による雇用の改善を根拠としている。16年4月の有効求人倍率は1.34倍と24年5ヵ月ぶりの高水準だし、失業率も3.2%まで下がっているからだ。
しかし、景気悪化を放置しておくと、そのうち雇用状況まで悪くなってしまう。景気悪化の原因は消費増税なので、理論的には消費減税(8%から5%)をすべきであると考える。ただし、消費税は社会保障目的税なので、実際に減税する場合、社会保障関係予算の組み替え等が必要となり、実務的・政治的に困難だ。そこで、減税の代わりに、実質的に同じ経済効果となるような財政支出を行うべきだ、というのが増税延期賛成論の主張である(高橋洋一「増税見送りは当然、財務省の権益拡大を許すな」)。