人間関係が好転する「こころの技法」

 拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べたが、この「7つの知性」を磨く場として「田坂塾」を開塾したところ、現在、3000名を超える経営者やマネジャー、リーダーが集まり、様々なテーマでの学びを深めている。

 この連続講義「7つの知性を磨く田坂塾」では、この「田坂塾」での学びの一端を公開しながら、毎回、7つの分野から一つのテーマを取り上げ、講義を行っていく。

 この第2回では、「人間力」に焦点を当て、拙著、『人間を磨く − 人間関係が好転する「こころの技法」』(光文社新書)において述べた、次のテーマを取り上げ、論じよう。

なぜ、欠点の多い人間が好かれるのか?

 しかし、このテーマを見て、早速、読者からは、疑問の声が挙がるだろう。

「いや、逆ではないか? 欠点の多い人間は、人から好かれないのではないか?」

なぜ、あの人は欠点だらけなのに好かれるのか?人間として色々な欠点があるのに、不思議なことに人から嫌われない人物がいるものです

 誰もが、一瞬、そう思うだろうが、実は、そうではない。世の中を見渡すと、人間としてみれば、色々な欠点があるのに、人から嫌われない人物がいる。いや、むしろ、人から好かれる人物がいる。非もあり、欠点もあり、未熟さも抱えているのに、周りの人から好かれる人物がいる。

 読者の職場のリーダーや企業の経営者でもいるだろう。たしかに優れたところもあるのだが、色々と欠点もあり、そのため、ときに部下や社員を困らせる人物、しかし、なぜか、彼らから好かれる人物だ。

 二つの例を挙げてみよう。

 まずは、ある企業の営業課のA課長。営業センスは光るものを持っており、周りも一目置いているのだが、どこか大雑把なところがあり、ときおり、会議の予定を忘れ、周りに迷惑をかける。

 今日も、会議の始まる時刻になっても外回りから戻って来ない。そこで、部下が携帯電話に連絡をとり、急いで戻ってもらう。

 待たされた会議のメンバーが、「またか、困ったな…」と思っているところに、ようやく、A課長、戻ってくる。しかし、会議室に入るなり、次の一言。

「すまん、すまん! 待たせて悪い! 俺、またやっちゃったな…」

 この一言で、会議のメンバー、苦笑交じりの笑い声。

 会議の後、A課長の部下が、他部からの参加者に対し、「お待たせして、すみませんでした」とお詫びをすると、彼らは、苦笑いをしながらも、どこか温かい一言。

「まったく、もう、いつもこうなんだから…。勘弁してくれよ…」

 このA課長、なぜか、あまり嫌われていない。

 もう一人、別な例を挙げよう。