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トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法・ゼロイチ
【第11回】 2016年6月24日
著者・コラム紹介バックナンバー
林要 [GROOVE X代表取締役]

できる人が「自由」ではなく、
「制約」を求める理由
Pepper元開発リーダーが明かす「0」から「1」を生み出す思考法

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自由でなければ創造性を発揮することはできない……。ときどき耳にする言葉ですが、「これは間違いだ」とPepper元開発リーダー・林要さんは断言します。むしろ、何かを生み出すときに大切なのは「制約条件」。これを明確にすることが、創造性を発揮する第一歩だと言います。どういうことか?林さんの著書『ゼロイチ』から抜粋してご紹介します。

 

「制約」があるから「脳」は動き始める

 自由でなければ創造性を発揮することはできない……。
 ときどき耳にする言葉ですが、僕は、これは間違いだと思っています。むしろ、何かを生み出すときに大切なのは「制約条件」。これを明確にすることが、創造性を発揮する第一歩なのです。

 それを最初に教えてくれたのは、あるカーデザイナーでした。
 トヨタでレクサスLFAの担当をしていたときのこと。僕は、今まで見たことのないようなカッコいいデザインにしてもらおうと、「技術上の要件は考慮せず、自由に考えてほしい」とお願いしました。制約を外したまっさらな状態で、自由に創造力を発揮してもらいたい。そのほうが、デザイナーも仕事がしやすいはず。きっと、これまでにない斬新なデザインを生み出してくれるだろう、と考えたわけです。

 ところが、なかなか仕事は進みませんでした。待てど暮らせど、デザイン案が上がってこない。怪訝に思っていると、デザイナーが困り顔で僕のところにやってきました。そして、「何か少しでもいいから、技術的に正しい方向での制約条件がほしい」と訴えてきたのです。 

 これには、驚きました。
 空気力学のエンジニアだった僕は、常に制約と戦ってきました。それを不自由に感じていたからこそ、デザイナーには、あえて制約を外して考えてもらおうと思ったのです。「自由だからこそ、創造力を発揮できる」と思い込んでいたわけです。ところが、「制約条件がほしい」と言う。これは、一体どういうことか、と驚いたわけです。しかし、改めて、自分の仕事を振り返ったときに、わかってきました。僕自身、制約があるからこそ、アイデアを考え出すことができたのだ、と。

 空気力学のエンジニアにとって、車は制約の「塊」です。たとえば、車には、必ず人が乗るスペースが必要です。だから、乗用車の場合には、横から見て人の乗る中央部が膨らんだ形状にならざるをえません。しかし、これは、空気力学的には「浮力」を生む形状。ところが、LFAで僕に求められたのは、空気力学を使って車体を地面に押し付ける「ダウンフォース」を生み出すことですから、中央部が膨らむ形状そのものが大きな制約になるわけです。

 しかし、だからこそ「脳」が動き出します。
 この制約をクリアするアイデアが出ない限り、一歩も先に進むことができないからです。言い換えれば、制約を起点に強制的に考えざるを得ないというわけです。

 たとえば、最も簡単にダウンフォースを生み出す方法は、リアウィングをつけること。しかし、LFAを上品なスーパーカーにしたいと考えているチーフエンジニアはよい顔をしません。そこで、リアウイングの可動化を提案。ただし、それだけでは、車両後方のダウンフォースしか生まれずバランスが悪い。だから、車両全体でダウンフォースを生み出すためには、車体と地面の間の空気の流れを利用するしかない……。

 このように、いくつもの制約条件が積み重なることによって、「思考の焦点」が定まってくる。そして、脳に負荷をかけて考え続けることによって、「これだ!」というアイデアがひらめくわけです。逆に言えば、ヒトの脳というものは適切な制約がなければ、「思考の焦点」が定まらず、何をやったらいいのかがわからなくなってしまう性質があるようなのです。

 こうして、僕は制約こそアイデアの源であることを深く認識。制約に苦しめられていると思っていましたが、よくよく考えると、制約があることで「脳」を使うきっかけを与えられていたことに気づいたのです。

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林要(はやし・かなめ) [GROOVE X代表取締役]

林 要(はやし・かなめ) 1973 年愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)に進学し、航空部で「ものづくり」と「空を飛ぶこと」に魅せられる。当時、躍進めざましいソフトバンクの採用試験を受けるも不採用。 東京都立科学技術大学大学院修士課程修了後トヨタに入社し、同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトを経て、トヨタF1 の開発スタッフに抜擢され渡欧。「ゼロイチ」のアイデアでチームの入賞に貢献する。帰国後、トヨタ本社で量販車開発のマネジメントを担当した際に、社内の多様な部門間の調整をしながら、プロジェクトを前に進めるリーダーシップの重要性を痛感。そのころスタートした孫正義氏の後継者育成機関である「ソフトバンクアカデミア」に参加し、孫氏自身からリーダーシップをたたき込まれる。 その後、孫氏の「人と心を通わせる人型ロボットを普及させる」という強い信念に共感。2012 年、人型ロボットの市販化というゼロイチに挑戦すべくソフトバンクに入社、開発リーダーとして活躍。開発したPepper は、2015 年6 月に一般発売されると毎月1000 台が即完売する人気を博し、ロボットブームの発端となった。 同年9 月、独立のためにソフトバンクを退社。同年11 月にロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。新世代の家庭向けロボットを実現するため、新たなゼロイチへの挑戦を開始した。


トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法・ゼロイチ

「0」から 「1」を生み出す力を日本企業は失っているのではないか? そんな指摘が盛んにされています。一方、多くのビジネスパーソンが、「ゼロイチを実現したい が、どうしたらいいのか?」と悩んでいらっしゃいます。そこで、トヨタで数々のゼロイチにかかわった後、孫正義氏から誘われて「Pepper」の開発リー ダーを務めた林要さんに、『ゼロイチ』という書籍をまとめていただきました。その一部をご紹介しながら、「会社のなかで“新しいコト”を実現するために意 識すべきエッセンス」を考えてまいります。

「トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法・ゼロイチ」

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