ビジョンを地域社会に広げる

「経営者・岡田武史」はいかにして生まれたか?<br />―岡田武史×藤沢久美 対談(2)

【藤沢】何度も聞かれていることかもしれませんが、サッカーの監督からクラブ・オーナーに転身されたときの心境も聞かせてください。

【岡田】今治でのチャレンジは、「日本のサッカーの型」をつくりたいという想いがあって、はじめたことなんだよね。まだまだ自分の考え方だしいかどうかわからないし、非常にリスクのあるトライなので、それを代表チームやサッカー協会が上からつくるのではなく、クラブ単位から広げていきたいと思った。Jリーグのチームでやってもよかったんだけど、もっと小さな街からはじめて、その地域全体を巻き込みながら、みんなを元気にする「サッカーの型」がつくりたいという思いもあったので、今治を選んだんだ。

【藤沢】なるほど。でも「経営理念」ということであれば、会社の人にだけ浸透させていればいいかもしれませんが、それを地域の人にも広げていくとなると、ご苦労も多いのでは?

【岡田】そうだね。そのためにサッカー以外にもいろいろな活動をしているんだ。オープンカレッジをしたり、今治西部丘陵公園という大きな公園の指定管理をとって、そこを環境教育の拠点にして、野外体験教育をしようと思っている。

【藤沢】以前から野外体験活動をされていますよね?

【岡田】うん、一般社団法人をつくってやっていたよ。たとえば早稲田の学生10名を海外に連れて行って、現地の学生各10名と2人1組にして、5日間カヌーで川下り、5日間は登山というプログラム。

【藤沢】過激ですね~。

【岡田】うん、過激。インストラクターは一切口出しせず、全部学生たち自身が考える。遅れる奴、怒る奴、帰ると言い出す奴…、修羅場になる。なんとか全員で乗り越えたときがすごくて、みんな抱き合って感動する。顔が変わるよね。将来、それぞれの国を背負っていくような学生たちにそういう経験を共有させておけば、戦争はなくなるんじゃないかという夢があるんですよ。それで、同じことを今度は今治でやる、というわけです。

【藤沢】夢が広がりますね。

【岡田】今治の人も、そのほかの人も、僕がサッカーをやるためだけに来たのではない、ということを徐々に理解してきてくれていると思う。

「経営者・岡田武史」はいかにして生まれたか?<br />―岡田武史×藤沢久美 対談(2)

金融資本主義と
目に見えない資本

【岡田】四国リーグなんて、いまは全然露出がないのに、いろんな企業が約2億円のお金をスポンサードしてくれています。少しずつ思いに共感してくれる人が集まってきている。

【藤沢】株主なのですか?

【岡田】1年契約のスポンサーです。FC今治のユニフォームの胸と背中に社名ロゴが入る。LDH(EXILEなどタレント等のマネジメント会社)のHIROさんも、「岡田さんの夢は最高だ、一緒にやらせてください」と言ってくれて、毎年、スポンサードしてくれている。ほかにもデロイト トーマツ コンサルティングや三菱商事も応援してくれています。

【藤沢】それはすごいですよね。でも、みなさんの期待にも応えないといけませんし、これからますます大変ですね。