リーダーには試練を超えた経験が必要

「遺伝子のスイッチ」が<br />人を本当のリーダーに変える<br />―岡田武史×藤沢久美 対談(3)

【藤沢】リーダーになる人には、そうした苦しい経験って大事だと思いますか?

【岡田】遺伝子にスイッチが入っている人のほうがいいと思いますね。そのためには、いろんな試練を乗り越えて、修羅場をくぐってきていることは大事だと思う。
今回、オーナーになると決めたとき、試合の勝ち負けだけで決まる監督とはちがって、少しは気楽にやれるかなという思いがあったんだ。でもね、冗談じゃない。めちゃくちゃ忙しいし、精神的にも大変(笑)。「なんで俺こんなことしてんだよ」って思うけど、もう登り始めた山だから、前に進むしかない。

【藤沢】降りるっていうことは考えないですか?

【岡田】「登ったら最高だろうな」っていうのが見えるからね。ただ耐えて登るだけだったらもたない。俺、夢想家だから、うちのスタジアムが1万5000人くらい入って、会社も上場して、お金を出してくれた人にお礼して回って、社員にもポーンとボーナスを出して、海外のチームとも提携して…とか、いつも考えているんです。

【藤沢】でも、ただの妄想ではなくて、実現できる妄想だと考えていらっしゃるわけですね?

【岡田】うん、可能性はあると思うよ。もちろんうまく回らない部分もあるけれど、ただの妄想では終わらなさそうだと感じさせてくれる結果が少しずつ出てきている。

【藤沢】次世代を考えたとき、こういう人に経営を任せたい、というイメージはありますか?

【岡田】突拍子もないアイデアを出せて、すぐ動ける人かな。すぐ動くのは俺の欠点でもあるんだけど、これだけ複雑な社会で、こうしたらああなる、ああしたらこうなる、と検証していたら動けなくなるよ。うちの社長は、東大からゴールドマンに行った素晴らしい頭脳の持ち主で、いつも俺をコントロールしてくれるタイプ。だから、もしも俺が抜けることになっても、彼の下に俺みたいなタイプの人材がいてくれるといいかなと思いますね。

【藤沢】なるほど、動く人と考える人でバランスをとるわけですね。組織にリーダーが一人である必要はないですし。

【岡田】藤沢さんの『最高のリーダーは何もしない』に書いてあるとおりでさ、もう「俺についてこい!」っていうリーダーの時代ではないんだよ。俺もそれはひしひしと実感していて。だからこそ、俺もそのうちフェードアウトしていかなければならない。会社もサッカー協会も、もっと若い人に任せていかないといけないなと。
自律的に動く組織をつくるうえでは、強烈なリーダーはいらない。そういう時代になっているんだと思いますね。

(対談終わり)

「遺伝子のスイッチ」が<br />人を本当のリーダーに変える<br />―岡田武史×藤沢久美 対談(3)