ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

英国の優位性は不変、EU離脱交渉でも主導権を握る

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第135回】 2016年7月5日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

 英国の「EU離脱」の是非を決める「国民投票」で、「EU離脱派(以下「離脱派」)」が勝利したことによる英国内外の政治・経済の混乱が続いている。だが、この連載では、短期的に英国に損失があるとしても、中長期的には、歴史的に積み上げてきた英国の底力が発揮されることになると考える(第134回)。円高の急激な進行に慌てて、「木を見て、森を見ない」ことになってはいけない。

次期首相候補大本命だった
ボリス・ジョンソンの突然の不出馬表明

 前回、英国のEU離脱問題には英国政治の権力闘争の側面があることを指摘した。国民投票後も、ディビッド・キャメロン首相の辞任表明に伴う英保守党首選の行方が混沌としている。今回も、英紙The Financial TimesThe Guardianなどの情報を追いながら、保守党内の凄まじい権力闘争を検証してみたい。

 なにより驚かされたのが、次期首相候補の本命とみられていた離脱派のリーダー、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長(以下、「ボリス」)が、党首選へ不出馬を表明したことだ。そもそも、首相の座を狙うボリスがキャメロン首相を引きずり降ろすために動いたことが、離脱派の勝利をもたらしたのだ。そのボリスが党首選に出ないのでは、国民投票における離脱派の勝利は、いったいなんだったのかということになる。

 ボリス不出馬の直接的な原因は、離脱派の同志で、党首選でボリスを支持するはずだったマイケル・ゴーブ司法相が突如「ジョンソン氏には 指導力がなく、待ち受けるEU離脱の使命にふさわしいチームを作れないという結論に達した」と批判し、自ら党首選に出馬すると表明したからだ。

 ボリスは、派手な言動で高い国民人気を誇るが党内基盤は弱い。ボリス以上に固い党内基盤を持つゴーブ司法相に裏切られては党首選を戦い抜くことは不可能だ。不出馬はやむを得ない判断だったといえる。

ボリス不出馬の裏事情
キャメロン支持派が暗躍?

 だが、ボリス不出馬にはそれ以上の裏事情があるようだ。ボリスの党首選に向けた行動が、ゴーブ司法相の不興を買った可能性がある。英紙によれば、国民投票の後、ボリスはさまざまな残留派の政治家に対して、首相就任後の人事を餌にしてボリスへの支持を要請して回ったのだという。なんと、残留派の中心であるジョージ・オズボーン財務相に、外相ポストを打診したという噂まで出ているのだ。

 これでは、たとえボリスが首相になったとしても、実際のEUとの離脱交渉を残留派が仕切ることになってしまう。途中から離脱派となったボリスとは違い、一貫して離脱派であったゴーブ司法相がこの状況に腹を立てたのは容易に想像できる。残留派に閣僚ポストを渡し、主導権を譲らないと首相になれない人物を「指導力がなく、使命にふさわしいチームを作れない」とバッサリ切り捨てたのは、無理もないことだ。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

国際関係、国内政治で起きているさまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する。

「上久保誠人のクリティカル・アナリティクス」

⇒バックナンバー一覧