日本企業は営業部門や製造部門などのフロント部門がコア業務、総務や人事、経理などのバックオフィス部門がノンコア業務と捉えられがち。だが、本来、バックオフィス部門にこそ、社員を活性化させ、企業の活力を生み出せる仕事や役割が集中しているし、それによって企業は生産性が上がり、成長力も増していく。経営者は、総務を始めとするバックオフィス部門に注目し、ここが経営の根幹であることを認識すべきではないか? 世界企業の総務事情に精通するファシリティマネジャー(FM)のクレイグ・カックス氏に、経営に資する存在であるグローバル企業の総務と日本企業の総務の違い・問題点を聞いた。(聞き手・『月刊総務』編集長 豊田健一)

クレイグ カックス・一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム(FOSC)副代表理事/日本生まれ、高校まで日本で育つ。1977年、米John Brown University卒業。1986年富士通アメリカ入社。1989年Director,Corporate Services,Fujitsu Network Communication,Inc.などを経て、2004年ジョンソンコントロールズ・ジャパンEVP。2008年10月株式会社エフエム・パートナーズ・ジャパン設立、代表取締役社長就任。総務のプロに向けた研修教材「総務プロフェッショナルコース」などを開発

「総務のプロ」が会社を変える

―― 日本の企業経営者が自社の成長を考えるなら、総務をはじめとするバックオフィス部門をコア業務と捉えて、営業や製造部門と同様に経営戦略に組み込んでいくべきだと思います。グローバル企業での総務はどのような位置付けにありますか?

クレイグ グローバル企業では総務は「専門職」です。総務を専門職とみなすように変化したのは、世界企業の30年前の流れでした。私のようなファシリティマネジャーや総務は、30年前はいわゆる「メンテナンス屋さん」扱いで仕事現場をメンテナンスする役割にとどまっていました。でも実際には、預かっているお金の金額は大きく、それをどう使っていくかは会社全体、つまり、経営にとって非常に大きく影響することでした。

 だから、我々自身が役員室で発言できる人材、つまり、経営会議で利益やバランスシートについて話しているときに、我々の仕事の結果がそれらの数字にどのようにつながっているかをきちんと伝え、議論できる経営人材にならなければいけない。

 そのために、「専門職」になっていく必要がある、という風潮が生まれました。そうした流れから、今では、グローバル企業で総務は専門職であり、コア業務として認識されています。

―― 日本企業の総務はそうではありませんね。つまり、海外に比べると30年遅れている、ということになりそうです。

クレイグ いちばん大きいのは人事異動の問題ですね。これまで多くの日本企業では、いわゆるおちこぼれの人材を総務に配属する、ということが行なわれてきました。

 さらに、そこでみっちり総務の仕事を教えてその道の「プロ」になるよう育成もせずに、3年や5年で、どんどん人を入れ替えてしまう。これではとても専門職としての人材、つまり総務のプロは育てられません。だから日本企業の経営者は「総務畑で育てていく人材」を見つけ、そこで活躍させ、プロにすることをもっとしっかりやらなければならないと思います。

 総務のプロを育てるには、とにかく経験を積ませることしかない。学校に行って学ぶものではないし、本を読んで、資格をとればいいものでもありません。