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「引きこもり」するオトナたち

ネット掲示板やメールのように傷つくこともない
“引きこもり予備軍”を救った1冊の「交換ノート」

池上正樹 [ジャーナリスト]
【第37回】

 ひょんなことから、人とのつながりが生まれることもある。

 都心に住む30代の田中早苗さん(仮名)は学生時代、故郷である地方都市のターミナル駅にあった大型書店の交換ノートを通じて、人と知り合った。

 田中さんは、大学を卒業後、ずっと会社に勤めており、不登校の経験もまったくない。しかし、以前から人とコミュニケーションをとるのが苦手で、あまり人との接点を持てないまま生きてきた。周囲から、勝手に自分のことを想像され、あれこれ噂されるのが嫌だったからだという。

 田中さんは、実家に住んでいた学生時代、偉人の伝記や漫画などを読むのが好きだった。学校に通うとき以外は、誰とも接することなく、自宅と図書館や書店を行き来する生活を続けてきた。孤立していても、本や漫画を通じて、違う時代の様々な世界に飛ぶことができ、1人で楽しめた。

書店の交換ノートが生んだ
ゆるやかな社会とのつながり

 その行きつけの書店では、なぜか隅っこの台の上に、ノートとペンがポンと置いてあった。田中さんも、それが何なのか、最初の頃はとくに気づかずにいた。

 しかし、ノートはすでに「○冊目」と記されていて、ずっと何冊も続いていることがわかる。「交流の場になっているのか。すごいなあ」と思うと、ふと覗いてみたくなった。

 ノートを開いてみると、様々な人たちが、いろいろなことを書いていた。あの人のあの本は最高だったとか、感想、批判、感動などが綴られている。そして、そんな誰かが書いた一言に、後日、「この前の○○さんへ…」「あの本、私も読みました」などとレスが付いていた。

 ネットがまだそれほど普及していない時代のことだ。ささやかなやり取りは、メールの走りのようなものだったともいえる。

 どこの誰がそれぞれノートに記したのかはわからない。でも、共通の話題があるから、ノート上で話が弾む。コミュニケーションの取っ掛かりとしては、悪くない。

 田中さんは常々、まったく知らない人に、「自分のことを知ってもらう機会が欲しいな」と思っていた。また、同世代や世代の違う人たちが、どんなことを考えているのかも知りたかった。

 気づいたら、田中さん自身、その交換ノートにハマっていた。人に顔を合わせないのがラクで、自由に自分の思いを書くことができたからだ。

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池上正樹 [ジャーナリスト]

通信社などの勤務を経て、フリーのジャーナリストに。主に「心」や「街」を追いかける。1997年から日本の「ひきこもり」界隈を取材。東日本大震災直後、被災地に入り、ひきこもる人たちがどう行動したのかを調査。著書は『ひきこもる女性たち』(ベスト新書)、『大人のひきこもり』(講談社現代新書)、『下流中年』(SB新書/共著)、『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書)、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)など多数。TVやラジオにも多数出演。厚労省の全国KHJ家族会事業委員、東京都町田市「ひきこもり」ネットワーク専門部会委員なども務める。YAHOO!ニュース個人オーサー『僕の細道』

 


「引きこもり」するオトナたち

「会社に行けない」「働けない」――家に引きこもる大人たちが増加し続けている。彼らはなぜ「引きこもり」するようになってしまったのか。理由とそうさせた社会的背景、そして苦悩を追う。

「「引きこもり」するオトナたち」

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