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田岡俊次の戦略目からウロコ

中国、南シナ海領有権否定判決で日米がとるべき姿勢

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第68回】 2016年7月14日
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中国の主張は「地中海はイタリアの
主権下にある」というのと同然

 中国が南シナ海の大部分の領有権を主張しているのに対し、フィリピンは「それは国連海洋法条約に違反する」とオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に提訴していたが、同仲裁裁判所は7月12日フィリピンの主張を認める判断を示した。

 訴えの要点の1つは中国が南沙、西沙諸島がある南シナ海を囲うようにU字型に引いた「9段線」の当否だった。これは1947年、当時中国を支配していた蒋介石の中華民国政府が「11段線」を引いて、それに囲まれる南シナ海が主権下にあると宣言したものだ。1953年に中華人民共和国政府がトンキン湾の一部の島をベトナム領と認めて「9段線」になった。

 中国では特に宋の時代(10世紀~13世紀)に南海貿易が盛んになり、南シナ海を多数の大型の中国帆船が往来していたことは事実だが、南シナ海の無人島群である南沙諸島を管理・支配していた証拠はなく「南シナ海の大部分が歴史的主権下にある」との中国の主張は「かつてローマ帝国は地中海を支配していたから、いまも地中海はイタリアの主権下にある」と言うのと同然だ。仲裁裁判所が「中国の主張には法的根拠がない」と裁定したのは当然だろう。

 もう1つの要点は中国が満潮時に水面下に没する「低潮高地」(干出岩)を埋め立てて人工島を築き、その周囲を領海や排他的経済水域にしようとしていることだった。中国は「9段線」を宣言はしたものの、現実には南沙諸島では出遅れ、一応「島」と言えそうな12島のうち、ベトナムとフィリピンが5島ずつ、台湾とマレーシアが1島ずつを支配し、それぞれが1つの島に飛行場を造っている。後から来た中国は低潮高地の周辺を埋め立てるしかなかったのだ。

 だが海洋法条約13条には「低潮高地は本土又は島から領海の幅(12海里=22km)を超える距離にあるときは、それ自体の領海を有しない」と定められている。仲裁裁判所が中国が埋め立てている岩礁は島ではない、と認定したのも当然だ。

 ただ、海洋法条約は第298条で「海洋の境界画定に関する紛争」については、いずれの国も拘束力を有する解決手続きを受け入れないことを宣言できる、としている。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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