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田岡俊次の戦略目からウロコ

南シナ海の米中対立は「出来レース」だ!

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第57回】 2015年11月2日
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 横須賀を母港としている米海軍のイージス対空ミサイル搭載駆逐艦「ラッセン」(9425t)は10月26日夜、南シナ海の南沙諸島で中国が埋め立て、滑走路を造っているスビ礁付近の12海里(22km)以内を航行した。この行動は米国がこれらの人工島を中国領と認めず、その周囲12海里は中国領海ではないことを示すためだ。

人工島付近を航行した米海軍の駆逐艦「ラッセン」の演習模様  Photo:U.S.Navy

 米海軍が今後あまりに頻繁にこうした行動を取り、もし中国側と武力衝突になれば、がんじがらめの相互依存が成立している米中の経済関係は断絶し、双方の経済は多分麻痺する。昨年の日本の輸出の23.8%は中国向け(香港を含む)、18.7%は米国向けだから、日本にとって2大市場の混乱は致命的な打撃だ。しかもそれは欧州、アジア地域、そして全世界に波及するだろう。

 だが、実際には武力衝突に発展する公算は低い。中国は米国がこのような行動に出ても武力行使をしないことを事前に示唆しており、暗黙の了解があった、と考えられるのだ。

「領土問題でも武力行使を軽々しく
言わない」と中国上将が表明

 北京西部の紅葉の名所、香山で10月16日から18日にかけて開かれたアジア・太平洋地域の安全保障協力を目指す討論会「第6回香山フォーラム」には、南沙諸島問題で中国と対立するベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイや、インド、インドネシア、シンガポールなど16ヵ国の国防大臣が出席し、米、英、仏、独なども公式代表を参加させた。

 昨年招待されたが断った日本も今年は防衛研究所の大西裕文副所長を派遣した。参加国は計49ヵ国と5国際機関、出席者は約500人に達した。このフォーラムが2006年に始まった当時は「中国軍事科学学会」など、研究機関の主催で、参加者も研究者がほとんどだったが、いまでは中国政府の「軍事科学院」が後援する半官半民の国際会議になっている。

 今回基調講演を行った中国の中央軍事委員会副主席(委員会の主席は習近平氏)範長龍・陸軍上将はその中で「たとえ領土主権に関る問題であっても、中国は決して武力行使を軽言(軽々しく言う)しない」と述べた。こうした発言は中国国内のタカ派の反発も招きかねないから、範長龍上将の一存で言えることではなく、習近平主席の意を受けた発言だろう。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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